「日本版ライドシェア」、運営会社の厳しい実態 国内最大手CREWがサービスを長期休止へ

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日本では諸外国よりもタクシーが拾いやすいうえ、鉄道やバスも普及している。加えて、いくら安くても、見ず知らずの個人の車に相乗りすることに強い抵抗感を抱く人は多い。法規制をクリアしてもライドシェアの利用者数は限られ、認知度もまだ低いのが実情だ。

「nori-na」「notteco」も大苦戦

実際、CREW以外の2つの日本版ライドシェアサービスも事業運営は厳しい状況にある。

nori-naを運営する中古カー用品販売会社のアップガレージ(東京都町田市)は、システムの維持にコストがかかるアプリ内の決済機能を2019年9月に停止し、同時に問い合わせ対応などのサポート業務も打ち切った。事業の収益化は困難と判断したためだ。現在、アプリはドライバーが相乗りする相手を募る掲示板機能のみになっている。

CREWのアプリ画面。以前は都内の緑のエリア内で20時から深夜3時まで利用できた

実質的に残るのはIT系企業ガイアックスがグループで運営する中長距離ライドシェアのnottecoだが、こちらも大苦戦を強いられている。notteco事業推進部長の石川琢磨氏は、「ライドシェアが市民権を得られるよう努力してきたが、今のところ、(利用が広がらず)事業としては難しい。今後収益化できるかどうかもまだわからない」と話す。

nottecoの運営スタッフは数名で、専任担当はほとんどいない。開発・運用にコストがかかるアプリや決済システムは作っておらず、サーバー代も月数十万円に抑えるなど最小限の費用で運営しているが、それでも事業としては赤字だ。当面は今の体制で事業運営を続け、法改正などでライドシェアの市場が広がるチャンスを待ちたいという。

CREWの長期運営休止を決めたAzitの吉兼CEOは、「他社との協業も含めてサービス再開を模索していく」とし、あくまで休止であって撤退ではないことを強調する。とはいえ、これまでの経緯を考えると、そのハードルは高い。「再開するかどうかは、市場の動向と会社の財務状況などを考えたうえで判断する」(吉兼CEO)。

白タク行為を禁じる法規制の下、アメリカなど海外とは異なる独自の仕組みで始まった日本版のライドシェア。社会に広く浸透するまでの道のりは険しい。

中野 大樹 東洋経済 記者

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なかの たいじゅ / Taiju Nakano

大阪府出身。早稲田大学法学部卒。副専攻として同大学でジャーナリズムを修了。学生時代リユース業界専門新聞の「リサイクル通信」・地域メディアの「高田馬場新聞」で、リユース業界や地域の居酒屋を取材。無人島研究会に所属していた。趣味は飲み歩きと読書、アウトドア、離島。コンビニ業界を担当。

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