新WTO事務局長がすんなりと決まらない理由 アフリカ出身候補が本命だが就任に遅れも

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しかし、もしいつまでも兪の立候補を取り下げないことで混乱を長期化させれば、韓国に国際的批判が高まることは必至だ。しかも、仮にアメリカ頼みでポストに就いたとして、手続き無視のゴリ押しで就任した正統性がない事務局長では加盟国の支持も得られず、「善良な仲介者」としての役割は果たせない。

そうなれば、兪自身はもとより韓国も強い非難にさらされ、国際通商システムへの依存度が高い韓国にとって痛手になる。実際、大統領選挙でトランプ大統領の劣勢が伝えられると、相前後して兪の「美しい辞退」が報じられ始め、韓国政府も辞退に向けた環境づくりに本格的に入ったように見える。

ただ、ここへ来て、兪は「最終候補を対象にコンセンサス(意見一致)を作っていく過程」と現状を称して辞退を否定し、さらに報道されている票差をマスコミの非公式情報として否定しているという(中央日報2020年11月17日)。

同時に「主要国と協議しながらコンセンサス形成プロセスに加わる」(聯合ニュース2020年11月17日)とも発言しているので、コンセンサス形成の過程での辞退を示唆しているとも理解でき、またトランプ大統領の敗北宣言までは現政権の顔を立てるという意味合いもあるのかもしれない。

いずれにしろ、おおむねバイデン候補の当選が確定的となり、政権移行準備が本格化しつつあるこれからが、辞退による事態打開のチャンスであることを韓国は自覚すべきだろう。

決着は来春までかかる可能性も

では、バイデン次期政権がオコンジョ=イウェアラを支持するか、と問われると、もちろん現時点では確定的なことは言えない。ただ、筆者は今のところ楽観している。

まず、バイデンは政策綱領や選挙戦中のスピーチでも同盟国との連携を訴えており、トランプ政権が脱退を決めたWHO(世界保健機関)やパリ協定といった多国間枠組みに留まることを早くも表明している。その意味ではWTOについても同様で、トランプ政権のようにWTOを過度に周辺化し貶めるのではなく、アメリカに有利な方向での改革に積極的にコミットすることが期待される。だとすれば、事務局長の長期不在解消にも協力的であることが期待できる。

また、加盟国主導(“member-driven”)のWTOでは本来事務局長の権限は限られており、オコンジョ=イウェアラ支持でアメリカが失うものはさほど多いようには思われない。特に今回は、アフリカが切望する初の大陸出身事務局長だ。アフリカに対する中国の影響力を懸念するなら、彼らを「肥溜め」などと侮蔑したトランプ大統領とは違うことを印象付けるのは、悪い選択ではない。

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