新WTO事務局長がすんなりと決まらない理由 アフリカ出身候補が本命だが就任に遅れも

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トランプ政権はWTOを混乱に陥れようとした?(写真:REUTERS/Denis Balibouse)

ただ、オコンジョ=イウェアラの素性は最初からわかっており、この段階でアメリカが突然反対したことに、他の加盟国から非難や困惑の声が上がっている。また、アメリカの政治ニュースメディアの「ポリティコ」によれば、アメリカは最終局面に来ても態度未決定の国に在外公館ベースで兪への支持を働きかけるといった微温的な対応に終始し、積極的に兪のために選挙運動を展開した形跡もない。

だとすれば、うがった見方をすれば、トランプ政権のWTO嫌いからして、WTOをいっそう混乱に陥れるための、「ためにする反対」だったのかもしれない。

アメリカのはしごを外せない韓国

慣例ではこの段階で対立候補が辞退し、話し合いの結果一本化された候補が加盟国の総意(つまりコンセンサス)で選出されるが、韓国政府はまだ兪の辞退を表明していない。日本の保守系メディアではこの対応を全面的に非難する論調が目立つが、これはやや一方的な見方ではないだろうか。

もちろん韓国大統領府がアメリカの力を頼み、逆転を狙って降ろさない側面もあるだろう。しかし事務局長選でこちらから働きかけた支援を獲得し、しかもアメリカがオコンジョ=イウェアラ反対の「駒」として兪を擁立している以上、彼女を降ろすことはアメリカのはしごを外すことになる。

特に大統領選挙直前でアメリカの意向に反する行動は、その時点で来るべき選挙でトランプ大統領の足を引っ張るとも受け取られかねない。そうなれば、仮にトランプ大統領再選なら、米韓関係を損なうばかりか、他の加盟国が圧力で兪を下ろした、つまりアメリカの手駒を奪ったとして、WTOへのアメリカの感情的反発はいっそう強まるおそれがある。この時点では、韓国にとっては現状維持のまま様子見の姿勢を取ることは賢明かつ唯一取りうる対応だろう。

WTOもそのように考えていることは、今回の選考プロセスの責任者であるウォーカー一般理事会議長(ニュージーランド大使)の11月9日会合の延期通知から見て取れる。通知文は、「保健衛生上の状況と現下の出来事を含む諸々の理由(reasons including the health situation and current events)」により会合を延期する、としており、また、次回会合の開催時期も示していない。

「保健衛生上の状況」が欧州での新型コロナウイルス感染症の再流行にともないWTOで対面の会議が当面開催できなくなったことを指すのは明らかだが、「現下の出来事」は、暗にアメリカ大統領選挙の混乱を指している。つまり、後者の決着までは、現状維持が好都合であることを示唆している。

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