高齢者は経済の宝、社会保障で地方創生は可能 「潅漑施設としての社会保障」という考え方

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社会保障制度は、国民経済における潅漑施設だとたとえられている。はたしてその意味とは?(写真:TOSHI.K/PIXTA)

社会保障改革の起点とみなされている社会保障制度改革国民会議の報告書は、2013年にまとめられており、「医療・介護分野の改革」のところを、「住み慣れた」で検索すると、2カ所ヒットする。

医療はかつての「病院完結型」から、患者の住み慣れた地域や自宅での生活のための医療、地域全体で治し、支える「地域完結型」の医療、実のところ医療と介護、さらには住まいや自立した生活の支援までもが切れ目なくつながる医療に変わらざるを得ない。(21ページ)
急性期治療を経過した患者を受け入れる入院機能や住み慣れた地域や自宅で生活し続けたいというニーズに応える在宅医療や在宅介護は十分には提供されていない。(25ページ)

このあたり、7年も前に私が起草委員として書いたのであるが、できればいつか、少しばかり修正できないだろうかと思っていたりもする。

『ちょっと気になる社会保障』という本を2016年に出している。今年の2月に2度目の大幅改定で50ページ増を図った際、『ちょっと気になる社会保障 V3』という書名にした。この本で、私が最も好きな章は、「第10章 社会保障がはたす3つの機能」である。

3つの機能とは、次である。

 生活安定・向上機能
 所得再分配機能
 経済安定化機能 

ここで紹介したいのは、所得再分配機能になる。

再分配政策としての社会保障

社会保障とは、次のようなメカニズムで、所得の再分配を行っている。

図1の中央にある家計は、みずからが所有している労働、資本、土地という生産要素を市場に供給し(家計から市場への矢印→)、その見返りとして所得を得る(市場から家計への矢印←)。この所得は、労働に対しては賃金、資本に対しては配当・利子、土地に対しては地代という方法で分配される。

ちなみに、経済学では、生産活動の成果を分け与えることをdistribution(分配)と呼び、資本、労働、土地などの生産要素を生産活動に投入する側面をallocation(配分)と呼んで、分配と配分を使い分けている。

市場が所得を分配する原則は、生産要素が生産活動にどの程度貢献したかに応じて分配するという「貢献原則」である。こうした分配を、市場による所得の一次的な分配という意味を込めて所得の「一次分配」と呼ぶこともある。この一次分配を対象として、政府は税・社会保険料を課して公共政策を行うための資金を徴収することになる(家計から政府への矢印←)。

そして政府は、徴収した資金、すなわち財源を用いて、公務員を雇用したり公共事業や、警察・国防などの公共サービスを供給したりする。同時に政府は、徴収したかなりの財源を、今度は、社会保障給付として、家計が必要としている程度という「必要原則」に基づいて再び分配することになる(政府から家計への矢印→)。

次ページ「貢献原則」を「必要原則」で修正する
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