「GoTo延長問題」に致命的に欠けている視点 コロナ前から抱えていた課題克服を優先すべき

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さらに、旅行業者は国内観光需要の多くを占める主要観光地と大都市(おおむね主要観光地でもある)を結ぶ旅行の取り扱いが多く、それ以外の観光需要を満たすパッケージツアーは少ない。そのため、大都市以外の居住者は大都市までの交通費が、大都市や主要観光地以外を巡る観光を希望する場合はそれに伴う追加的な費用が、原則Go Toトラベルの対象でないため、それらを希望する者は全額自己負担となる。

つまり、Go Toトラベルが対象とする旅行業者のパッケージツアーでは多様な観光ニーズをカバーしきれていない。

Go Toトラベル延長には平日の観光旅行の振興が重要

現在、国はGo Toトラベルについて当初2021年1月末までだったものをさらに延長する方向で検討している。その際は今の制度のままで単純に延長するのではなく、ポストコロナを見据えて、これまでの課題を克服した新しい観光業を確立するという視点を盛り込むべきである。具体的には、以下のようなものが考えられる。

・鉄道、航空、船舶等の公共交通機関を利用した遠距離(例えば片道100キロ以上)の平日宿泊の観光旅行について、旅行会社を経由しない公共交通料金についてもGo Toトラベルの対象にするのはどうだろうか。さらに、平日宿泊の観光旅行では泊数が増えるほど地域共通クーポンを割り増すのも一考であろう。
・訪日外国人向けに行われているさまざまな公共交通機関利用の優遇策について、周遊型の観光旅行の振興に役立つので、公費負担により平日宿泊の観光旅行限定で日本人にも適用できないだろうか。

例えば、JRはコストパフォーマンス抜群と評判の、7日間3万3610円で新幹線が乗り放題となる「ジャパン・レール・パス」を訪日外国人限定で販売している。

また、航空各社は東京オリンピック・パラリンピックを意識し、訪日外国人向けの優遇プランとして2020年の夏限定ながら、魅力的なプランを準備していた。

日本航空は2020年7~9月の東京(羽田)、大阪(伊丹・関西)発着の国内全路線を対象に、4つの行き先候補の中から最終的な行き先はランダムに決まる(おそらく、主要観光地以外が多いはず)ものの、最大で10万席が無料となる「Win a Trip with JAL」が計画されていた。

全日本空輸は2020年7~9月の期間限定で東北地方を発着する国内線の運賃が2020円になる計画があった。著名観光地の混雑緩和や航空会社の空席活用などが狙いとみられるが、これらに類するものを日本人の平日宿泊の観光旅行向けに行ってみるのはどうだろうか。

これらの施策は多様な観光ニーズを掘り起こす可能性があるとともに、観光客を分散させることで新型コロナウイルス感染症対策として「3密」を避けるためにも有効である。

もちろん、感染者数や観光地の医療体制などによっては、エリア別にGo Toトラベルの対象から一時的な除外や、場合によってはGo Toトラベルの全国レベルでの一時的な中断もありえよう。それらも含めて、Go Toトラベルの延長に向けては、さらなる検討が求められよう。

岡田 豊 みずほ総合研究所 主任研究員

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おかだ ゆたか / Yutaka Okada

1967年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現在のみずほ総合研究所の前身である旧富士銀行系シンクタンク・富士総合研究所に入社。地域政策、地域活性化等を研究する。趣味の世界では、2000年のモノポリー世界選手権でチャンピオンに輝き、日本モノポリー協会専務理事の肩書も。モノポリー大阪版・横浜版の開発を監修し、各地元企業の知名度向上にも貢献している。

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