中国アリババ驀進に国家の「待った」がかかる訳 テンセント含め、独占に当局が監督を強める

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予兆はあった。アントが手掛ける消費者金融事業の融資残高は1.7兆元(26兆円)もあるのに、大半は提携銀行を介した融資でアントのバランスシートにはその2%しか計上されていない。資本規制の制約なしに膨張を続けていることへの伝統的金融事業会社からの批判が強まっていたほか、金融リスクの火種になる懸念が指摘され、規制当局と長年つばぜり合いしてきた。

今年6月に、社名から「金服(フィナンシャルサービス)」を取りアントグループに改称、投資家らに対して「フィンテックではなく、テック企業だ」と強調していたのも、規制当局からの管理・監督や批判をかわすためだったと見られる。

命取りになったジャック・マー氏のスピーチ

命取りになったのが、10月24日に上海で開催された金融サミットでの、アリババ創業者・馬雲(ジャック・マー)氏のスピーチだ。ジャック・マー氏は2019年9月にアリババの会長職を退き自らを退休人士(引退者)と名乗っていたが、複雑な間接所有でアント発行済み株式の50.5%を保有。グループの中で最も革新的で金のなる木であったアントを実質支配している。

この日、ジャック・マー氏は与えられた15分の時間を超過し、「バーゼル合意は老人クラブ」「中国の問題は金融のシステミック・リスクではなく、金融エコシステムの欠如というリスクだ」と21分間にわたり踏み込んだ発言を繰り返した。

この金融サミットには、国家副主席の王岐山氏や前中国人民銀行総裁の周小川氏など大物が出席。特に、王岐山氏は開幕スピーチで「近年、新しい金融技術が普及し効率性や利便性が高まった一方で、金融リスクも拡大している」と警鐘を鳴らしていた。ジャック・マー氏のスピーチは王岐山氏の発言を否定したとも取れる内容になったのだ。

中国メディア「財新」によれば、ジャック・マー氏はスピーチ原稿を自らまとめ、金融事情に精通したアント関係者には事前に見せなかった。関係者は「ジャック・マーひとりの増長だ」と明かしているという。中国のネット上では、以前の社名「螞蟻金服」(マーイージンフー)と同音の「馬已経服(馬雲はすでに屈服した)」との揶揄がある。未曽有のIPOを直前に控え、ジャック・マー氏は虎の尾を踏んでしまったわけだ。

「ミスター人民元」と呼ばれた前中国人民銀行総裁の周小川氏は、11月10日に開かれたボアオアジアフォーラムの開会式で、「科学技術のイノベーションは巨大な運動エネルギーを生み出すと同時に、社会の安定管理に巨大な挑戦をしている」と警告。デジタル企業の独占禁止について改めて強調した。

政府による強い統制の下で民営企業のイノベーションも享受しようとする中国の「良いとこ取り」政策はうまくいくのか。中国のデジタル企業は岐路に立たされている。

『週刊東洋経済』11月21日号(11月16日発売)の特集は「デジタル大国 中国」です。
秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年から再び『週刊東洋経済』編集部。24年から8年振りの記者職に復帰、現在は自動車・重工業界を担当。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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