分極化する「アメリカの言論空間」を読み解く術 「逆張り」にだまされないための「定点」を持つ

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結果的に、外国政治に関する自国メディアの報道や、それに基づいて母語で供給される情報は、現状を把握し、今後を見通すにはまったく不足していたり、適切さを欠いていたりすることになる。とくに日本の場合、日本語での情報が国内メディア発にほぼ限定されてしまうため、供給源が多様化する英語での情報などに比べて、その傾向はいっそう強まりやすい。

的外れな議論になってしまうのを避けるために、現地発の情報に直接当たるのは、従来最も推奨されてきた方策である。

これも中東など言語障壁が高い地域だと難しい場合があるが、英語圏の場合には比較的簡単にできる。インターネットの普及は文章で供給される情報量を飛躍的に増やしたため、訳読中心のいわゆる学校英語のみで勉強していても、得られる情報は多くなっている。今後、自動翻訳の精度向上などが進めば、事態はさらに改善される可能性が高い。

分極化する「アメリカの言論空間」

ところが、アメリカ政治に関してはいささか様相が異なる。論者によって時間的な幅には違いがあるものの、少なくとも最近10年程度の間に、アメリカの言論空間の党派化は顕著になった。共和党と民主党がかつてよりも鮮明に保守とリベラルに分かれて対立を深める現象を「分極化」と呼ぶが、分極化の影響が言論空間や一般有権者にまで及ぶ傾向が強まっているのである。

待鳥聡史(まちどり・さとし)/京都大学大学院法学研究科教授。1971年生まれ。京都大学法学部卒業。京都大学大学院法学研究科博士後期課程中途退学。博士(法学)。大阪大学助教授などを経て、現職。著書に『首相政治の制度分析―現代日本政治の権力基盤形成』(千倉書房、サントリー学芸賞)、『アメリカ大統領制の現在―権限の弱さをどう乗り越えるか』(NHK出版)、『政治改革再考―変貌を遂げた国家の軌跡』(新潮選書)など(写真提供:サントリー文化財団)

言論空間が党派化し、それがますます尖鋭的になっている現在のアメリカの場合、英語なので何とかなると思って徒手空拳でアプローチすることは、日本のメディアによるフィルタリングを経た場合よりも、さらに一方的な情報に無防備なままさらされることになりかねない。

例えば、選挙予測や世論調査動向を知るために、日本でも多くの人が利用していると思われるウェブサイト「リアル・クリア・ポリティックス」のトップページを閲覧してみよう。

ここには毎日多数の政治評論へのリンクが貼られている。その中には保守とリベラルの双方があり、極端な立場をとるものが相当数含まれている。だが、執筆者やリンク先メディア名から政治的立場を予測できる人はまれであろう。客観的な分析も多いが、アメリカの政治制度などについての予備知識がないと理解が難しい。

先に触れた、日本でトランプ再選の可能性をなお小さくないと考える論者の少なくとも一部は、自分なりに情報を得ようとした際に、党派化したアメリカの議論の影響を受けた可能性が高い。

そこにはもちろん、多数派と異なる主張すなわち「逆張り」で注目されたいといった誘因も作用しているだろうが、言論の自由がある限り、そのような確信犯的な行動は抑止できない。むしろ考えるべきは、意図せずして極論に影響されているケースである。

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