「ポエム」の対義語は、「自虐」
中川さんは「ポエムの対義語は、自虐だ」と話す。ポエムは自分で自分を上げるが、自虐は自分で自分を落とす。ネット上で最大の自己防衛策は自分で自分を落とすこと。最もたたかれるのは自慢話だ。
しかし、誰でも見られるネットに何かを書くこと自体、誰かに認められたいという気持ちが多少なりともあるはず。自分を落としながら上手にアピールする、この難易度の高い技の模範を中川さんが示してくれた。
新卒で博報堂に入社した中川さんは、企業の広報を担当するコーポレートコミュニケーション局(CC局)の研修で適性検査を受け、「あなたが住んでいる街のキャッチコピーを1行で作り、100字以内でボディコピーを書け」という問題が出た。
さあ、皆さんも考えてみよう。
「ほかの社員が書いたコピーはだいたいポエムっぽかった。たとえば、京都・西陣出身のヤツなら、『今日も機織る音がバッタン、バッタン』とかね。たいていの場合、『文化薫る街、○○。』『東京・○○、静寂の街』なんてやたらと『、』とか『。』書いては美辞麗句で完結させていた」
東京都立川市出身の中川さんは、こう書いた。
「うど生産高日本一」
自己陶酔していない。「日本一」と自慢しているようで、「うど」だ。「うどの大木」という言葉があるように、どこかマヌケである。
その後に続くボディコピーでは、「意外でしょ? でも、これは本当です。駅前には数々の百貨店、東に競輪場あり、西に広大なる昭和記念公園。北には歴史香る玉川上水の流れ。南には悠久なる多摩川の流れ。一言じゃ語りつくせぬ立川です」と書いた。
「おそらく立川市としては、商業施設や巨大な公園に加え、水に囲まれた自然豊富な街という多面性をアピールしたいだろうと考えたから。でも、『うど』で初めに驚かせつつも自虐的になり、『悠久なる多摩川の流れ』で『多摩川wwww、きたねえ川だろうよwww何が悠久だwww』と冗談に思ってもらえる。四万十川や長良川みたいな美しい川を『悠久』と書いたら、ポエムになってしまうわけです。随所に自虐を入れるのがポイント」
適性検査で見事1位になった中川さんは、CC局に配属されたのだった。
(撮影:梅谷秀司)
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