NTTが「GAFA対抗」なりえる為に欠かせない条件 ドコモ完全子会社化の先に見える展望と課題

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「医療やヘルスケアの分野では、バイオデータを活用した高度な未来予測も考えられる。体温や血圧、心拍数などの日々のバイオデータに、これまでかかった病気の履歴、ゲノム情報などをあわせて演算処理することにより、いつ頃、何の病気にかかりやすいかを正確に予測できるようになる。

これにより、各個人ごとに未病の段階での予防や、病気にかかったときに迅速な対応ができるほか、社会全体としての疾病や感染症などの傾向が把握できれば、あらかじめ創薬や治療法の開発を先行させることもできる」(同)

また実世界のヒト・モノの仮想的な分身=デジタルツインを生成する「デジタルツインコンピューティング」もIOWNの柱をなす技術の1つです。

「『デジタルツインコンピューティング(DTC)』を活用し、現実に先立って、サイバー空間上で未来予測を行うことが可能になる。(中略)例えば何かの課題に対して議論したい場合、この仕組みを使って、議論する人とテーマをインプットすれば、その結論を一瞬で知るといったことができるかもしれない。仮に、結論を出すまでに1時間かかる議論があったとしても、結論をサイバー上で瞬時に出せるとしたなら、それは1時間後の未来予測ができたことになる」(同)

そしてO-RAN、IOWNといった技術が、トヨタと手を組み構想するスマートシティプラットフォームに結実することは、想像にかたくありません。このスマートシティプラットフォームがコアとなり、医療・教育・交通・ビジネス・エネルギーといったサービスを提供、またそこで蓄積されたデータが街づくりへと反映されていく。言うまでもなく、プラットフォームと街を接続するのが、5Gをはじめとする情報通信ネットワーク、ということになります。

国内数カ所のほかラスベガスでの実証実験が進む

その成果はすでに見え始めています。トヨタとの提携こそ2020年に発表されたものですが、それ以前からNTTは実証実験を進めてきました。福岡市、札幌市、横浜市、千葉市などでICTを活用した街づくりを推進してきた実績があります。海外では2018年からラスベガスの一部のエリアで実証実験を開始し、少しずつ規模を拡大させています。

これは、高解像度のビデオカメラ、音響センサー、IoTデバイスを街に設置、市職員による現場の状況把握に必要なデータを収集・分析、防犯や交通安全に役立てるというものです。2020年にはマレーシアでスマートシティの実証実験を開始。こうした成果をNTTはさらに日本各地へ、そしてグローバルへと展開していくことでしょう。

なお、ラスベガスがなぜGAFAではなく日本企業であるNTTに本案件を託したのかと、疑問に思う方もいるかもしれません。これについては「NTTがデータの所有権にこだわったことがラスベガス市に評価された」と報じられています。ほかの大手IT企業はデータの所有権を譲らなかった一方で、NTTは「データは市のもの」としてラスベガスのためにデータを活用する考えを示したのです。NTTによる対GAFAの姿勢はここでも鮮明です。

しかし、NTTは「本当に」GAFAに対抗しうる存在になれるのでしょうか。確かにNTTとトヨタの組み合わせは強力です。通信大手とモビリティー大手の提携はグローバルで見ても例がなく、その意味では大いに期待できます。しかし中国のアリババを筆頭に、GAFAもスマートシティには注力しているのです。詳細はここでは触れませんが、スマートシティにおいても現時点では日本企業の「周回遅れ」は明白と言わざるをえません。

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