「絵本の読み聞かせ」父と母で効果はこんなに違う 母は絵本の中の「物」に、父は「コト」に着目する

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この点について、私の考えを述べると次のようになります。

・英語を含め、外国語の絵本を読み聞かせに使うこと自体は賛成
・ただし、言語教育の姿勢としては、まず母語をしっかりと育てることを重視すべき

読み聞かせは英語教育にも使えるか?

たしかに、幼いうちから英語に触れさせれば、子どもは英語の単語や表現をすぐに覚えます。

とはいえ、それが英語という言語の習得につながるかどうかは別問題です。

いまの子どもたちは、YouTubeなどで英語に親しんでいます。

私がよく会う教え子の子は、おいしいものを食べたら「Yummy」と言いますし、ものを落としたら「Oh! no!」と叫んだりします。

ただ、これはいくつかの英語の表現を感覚で覚えているだけで、英語という言語を習得しているのとは違います。

最近では、子どもを英語で教育する幼稚園に入れている人もいます。私の同僚だった方のお孫さんは、1歳から5歳まで英語幼稚園に通っていたのですが、その間にかなり英語を話せるようになりました。

「散歩しているときに、“I see lots of people walking.”(たくさんの人が歩いているのが見える)と言ったから驚いた」という話を聞きましたから、相当複雑な文法を身につけていることがわかります。

ただ、幼児教育である程度英語を聞いたり、話したりできるようになっても、その後、普通の小学校に入ると英語を忘れてしまうことがほとんどです。
幼稚園から英語で教育して、引き続き英語力を伸ばしていくには、小学校からはインターナショナルスクールに入れるくらいでないとうまくいきません。

言語を学ぶために重要なのは、持続性です。途切れることなく長期にわたって学ぶ、生活のなかで使う、という経験があってはじめて言語習得が可能になるのです。

もし、子どもにこの先も英語環境を与え続けると決意されているなら、英語での読み聞かせもいいでしょう。しかし、そこまで考えていないのであれば、読み聞かせに英語教育としての効果は期待しないほうがいいと思います。

それよりも、日常生活で使う母語(日本語)の絵本で、思考力と言語能力をしっかりと育ててあげることをまずは優先するべきです。こうして培った力が、後に本格的に外国語を学ぶときにも生かされるはずです。

『ハーバードで学んだ最高の読み聞かせ』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

もちろん、読み聞かせのときに英語をはじめとする外国語の絵本を使うのが無意味かというと、そうではありません。

世界には、自分が使っていることばとは別の言語があること。

自分の知らない言語を使って生活している人がいること。

それを学ぶことは、異文化に対する子どもの感覚を養ううえでとても有意義です。

「英語の早期教育」とかまえるのではなく、あくまでも楽しい読み聞かせのなかのひとつのバリエーションとして、子どもと一緒に楽しむことをおすすめします。

加藤 映子 大阪女学院大学・短期大学学長、大阪女学院大学国際・英語学部教授、Ed.D(教育学博士)

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かとう えいこ / Eiko Kato

ボストン大学を経て、ハーバード大学教育学大学院(教育学修士・博士)に入学。同校で、「ダイアロジック・リーディング」に出合い、研究を重ねる。
現在は、「子どもとことば」「絵本を通してのことばの発達」を研究課題とし、教員を対象とした「子どものことばを育てる読み聞かせ」ワークショップも行うなど、日本における「ダイアロジック・リーディング」の第一人者として普及活動に尽力している。
著書に『思考力・読解力・伝える力が伸びる ハーバードで学んだ最高の読み聞かせ』(かんき出版)がある。

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