実際の戦争で宇宙が作戦領域となったのは、GPS、通信、情報等の衛星機能とそれらを利用した精密誘導兵器が使用された湾岸戦争(1991年)であろう。その後アメリカ軍は、北朝鮮等の弾道ミサイル脅威に備えたBMD態勢を構築し、それを発展させた複数領域作戦(MDO)を将来構想の中心に据えている。MDOはあらゆるセンサーと攻撃・防御システムをネットワーク化したSystem of Systemsであり、衛星が枢要な機能を担う。
そのアメリカにとって2007年1月に中国が実施したASAT実験は、第2のスプートニクショックをもたらし、宇宙が戦闘領域と化した。中国は、この実験で高度約865キロメートルにある自国の老朽化した気象衛星をミサイル攻撃で破壊した。その結果3300以上の破片が軌道上に放出され、世界中でデブリへの懸念と中国への不信が一気に高まり、中国のASAT能力の実証によって、米ロも宇宙空間での戦闘を現実問題とせざるをえなくなったのである。
デブリのリスクやASATの脅威から衛星を防護するためには、軌道上の物体を把握するSSAが不可欠であり、アメリカは同盟国等とともに宇宙監視ネットワーク(SSN)を築いている。SSNはさまざまな地域の光学望遠鏡、レーダーおよび監視衛星で構成され、本年5月に新編された航空自衛隊宇宙作戦隊もSSAを主任務とする。衛星への攻撃は奇襲的に行われるため、SSAは普段から常続的に実施するグレーゾーンの作戦となる。
自衛権の行使や抑止の理論と行動基準が未確立
換言すると、市場化する宇宙の安定利用のSSAから衛星の軍事機能を保証する作戦は連続的につながっている。問題は、サイバー領域と同じく、自衛権の行使や抑止についての理論と行動基準が未確立であり、地球上の紛争が宇宙に急拡大したり、逆に衛星へのサイバー攻撃が陸海空領域の戦闘に発展したりする危険性が有ることだ。
アメリカは、すべての宇宙アセットの防護と運用を司る責任と権限を昨年12月に発足した宇宙軍司令官に付与し、宇宙領域の本格的な作戦態勢を整えつつある。中国も、習近平主席の軍制改革によって、空軍の空天網一体化(空・宇宙・サイバーの統合)を進めると同時に、新編した戦略支援部隊の下に宇宙システム部とネットワークシステム部を置き、宇宙とサイバーの作戦連携を強化している。
空自は来年度、宇宙作戦隊を群に格上げする計画だが、資源(予算・人材)と経験の不足が課題だ。JAXAや民間との協力を進めるとともに、アメリカ軍のシュリーバー演習等への参加規模を拡大し、部隊の急速錬成を図る必要があろう。
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