7時間睡眠の人が「ウイルスに強い」決定的証拠 免疫機能を高める驚くべきパワーのカラクリ

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これまで数千人の被験者に協力いただき睡眠中の自律神経の変動を測定してきましたが、よく眠れていない自覚のある方の多くに睡眠中の副交感神経のはたらきが充分に上がらず、交感神経優位の傾向が見られました。そういう方に多いのが、ふとんに入っても手や足の先が冷えたままでなかなか眠れないというケースです。これは交感神経優位の時間が続きすぎて、末梢の毛細血管への血流が低下している証拠の1つです。

赤ちゃんは眠くなると手足がポカポカと温かくなるのを、ご存じでしょうか。赤ちゃんほど顕著ではありませんが、大人でも通常は眠くなると手や足などの体表温度が上がります。これは副交感神経が優位になって毛細血管が開き、末梢への血流が増えるからです。日中は、体を活動状態にするために脳や心臓、筋肉など体の中心部に血液が集まっていますが、夜になると体を休め修復するために血液が中心から末梢へと分散されます。

この、温かい血液の移動とともに体の中心部の熱は下がり、体の末端が温かくなって手先や足先などの表面から熱が放出されるのです。よく聞く「深部体温を下げる」とは、これを指します。

眠り始めに手足が温かくなるのは、自律神経が副交感神経優位に切り替わったサインです。冷え性で寝つきが悪くて困っている人の多くは、交感神経が高ぶって自律神経の切り替えがうまくいかなくなっています。

なぜ眠る数時間前からが大事と言われるのか

睡眠に問題のある人の診察で生活習慣を確認すると、自律神経のバランスやパワーを損ねる要因が隠れていることがほとんどです。非常に多いのは、仕事やプライベートで強いストレスを抱えていたり、朝早くから夜遅くまで忙しく活動しすぎていたりするケースで、この傾向がある人は交感神経優位が続きすぎているため、夜になっても下がりきらず深く眠れないのです。

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夜遅くにたくさん食べる、寝酒をする、テレビやパソコン、スマートフォンからの光を見るなど、寝る直前の習慣も見過ごせません。呼吸法などで瞬時に交感神経と副交感神経のバランスを整えることも可能ですが、体にとって自然なのは体内時計にしたがって夕方から夜にかけて交感神経が徐々に鎮まり、副交感神経のはたらきが高まる流れです。

これが夕方以降も、仕事などで神経が高ぶる状態が続いたり夜遅く食事を摂ったりして、眠る直前まで脳や内臓をフル稼働させていると寝つきが悪くなり、睡眠中も交感神経優位の状態がしばらく続きます。

睡眠の質を高めるには、夕方以降は副交感神経の働きを邪魔する行動をなるべく避け、副交感神経のはたらきを上げる行動に変えていくのが効果的です。

根来 秀行 医師、医学博士

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ねごろ ひでゆき / Hideyuki Negoro

東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程修了。ハーバード大学医学部客員教授(Harvard PKD Center Collaborator, Visiting Professor)、ソルボンヌ大学医学部客員教授、杏林大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、信州大学特任教授、東京大学客員フェロー、事業構想大学院大学理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、最先端の臨床・研究・医学教育の分野で国際的に活躍中。企業やトップアスリートのアドバイザーも務める。『ウイルスから体を守る』(サンマーク出版)、『ハーバード&ソルボンヌ大学 根来教授の超呼吸法』(KADOKAWA)など著書多数。

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