ネズミに雨漏り、楢葉町被災者が苦しむ荒廃 「帰町判断」目前の原発被災地で何が起きているか

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都内で開かれた町政懇談会(4月26日)

帰町判断を前に、楢葉町は4月21日から5月2日にかけて、福島県や東京都などで計13回にわたって町政懇談会を開催。4月26日の都内での懇談会で、前出の松田さんは町の費用負担による自宅の取り壊しを松本幸英・楢葉町長に求めた。

松田さんが途方に暮れているのは、町による家屋の被害判定で最も被害が少ない「一部損壊」と判定されたためだ。一部損壊家屋については、取り壊しに際しての費用を自分で負担しなければならないうえ、被災者生活再建支援金の支給も受けられない。

「私一人の力では自宅の再建はできません。土地を借りているものですから、避難解除で地代を払うとなったらどうにもなりません。どうか町のほうで取り壊してください」

脳梗塞を患い、退院して間もない松田さんは、涙を浮かべて町長に窮状を訴えた。

「頭が変になりそうです」

光明がないわけではない。一部損壊の家屋の解体についてはこれまで何の支援策もなかったが、自治体からの要望に応える形で復興庁が事業化を検討している。町では9月から10月にかけて、大規模なネズミ駆除も実施する計画で、町の予算を投じてハウスクリーニングの補助金も創設する。

ただ、ネズミ被害は約7割の家屋で発生している。そのうえ「大工の手配が難しいことから、半壊や一部損壊の家屋の取り壊しには3~4年かかる可能性もある」と楢葉町の永山光明・生活支援課長は危惧する。

長引く避難生活は、住民の生活のありようも大きく変えてしまった。

金井直子さん宅のカレンダーは2011年3月のまま

現在、いわき市内の借り上げ住宅で暮らす金井直子さん(48)は、原発事故の5年前に建てた自宅をどうするかが決まらないままになっている。自宅は壁に亀裂があるものの、住めない状態ではない。一方で1700万円もの住宅ローンが残っている。

金井さんが「戻る判断ができない」と感じているのは、クルマで10分ほどの場所に中古住宅を購入した82歳の母親を見守る必要であるからだ。福島第一原発が立地する大熊町から避難してきた母親には、帰る故郷がない。

「いずれ介護が必要になる母を置いて自分たちだけで帰還はできない。町には、戻る人、戻ることができない人を分け隔て無く支援してほしい」と金井さんは望む。

住民の帰還が進まなければ、産業の復興もままならない。

町役場の西側駐車場にオープンする共同仮設店舗への入居を予定している商店主(52)は、「いちばんの不安は将来のこと」と打ち明ける。「現在でこそ、売り上げが落ち込んだ分は東京電力からの賠償で埋め合わせてもらえるが、住民の帰還が進まないうちに賠償が打ち切られたら、商売が成り立たなくなる」と危機感を抱く。

話は冒頭に戻る。4時間に及ぶ東電社員による片付け作業が終わると、松田さんの自宅内には何もなくなった。

「片付けていただいてよかった。本当にご苦労さまでした」

東電の社員に丁重に感謝の言葉を述べた松田さんは、2日後に千葉市内の避難先へと戻っていった。

それから2週間が過ぎて安否確認の電話をしたところ、「先々のことを考えると夜も眠れず、頭が変になりそうです」と松田さんは苦しみを吐露した。

政府の原子力損害賠償紛争審査会は、避難指示解除から1年後を当面の目安として住民への精神的損害の賠償を打ち切ってよいとする指針を示しているが、住民の苦悩は時間とともにむしろ深まるばかりだ。その実情が伝わらないことに、多くの住民が歯がゆい思いを募らせている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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