“原発輸出”最前線のベトナムの村を歩く ズン首相「着工延期」発言のなぜ
日本とかかわりを持ったベトナムの海
珊瑚礁からの白砂がコバルトブルーの海を抱え込む。自然の地形が作った穏やかな入り江では、あの海藻の天然養殖が行われていた。ベトナム語で「ロン・ニョウ(ブドウ海藻)」。緑のつぶつぶが房のように並ぶ、沖縄特産としてわれわれも知る「海ぶどう」である。
名前の言い回しが似ているのは偶然ではない。もともとベトナムには海ぶどうは自生しておらず、種を沖縄から持ち込んで養殖が始まった。初めて目にする珍しい海藻に、ベトナム人は日本での通り名を当てたわけだ。むろんベトナムで食べる習慣はない。今のところすべて日本への輸出用である。
場所はベトナム中南部のニントアン省。省都ファンランから車で30分ほど走った、南シナ海に面した静かな漁村である。にんにくや小玉ねぎといった規模の小さい砂地の畑を抜けると、青い空の下にひたすら美しい砂浜と海の風景が広がる。
以前からワカメなどの海藻養殖が行われていたこの土地に、新顔が登場したのは2年ほど前のことだ。汚染のないきれいな海は、ミネラルなどの栄養分も豊富で、手間をかけずとも良質な海ぶどうが育った。国内消費や中国に輸出していたほかの海草類より、日本向けの海ぶどうは高値がつくのだという。
さらに近年、ここにはもうひとつ、日本と深くかかわらざるをえないものが生まれた。海ぶどうの生産現場からほんの数キロ先にあるタイアン村。ここはベトナム初の原子力発電所の建設予定地であり、しかもその建設は日本が請け負う。日本が初めて行う原発輸出のまさにその現場なのである。
豊かな自然環境を利用し、海ぶどうを日本に輸出するベトナムの美しい海辺。お返しに日本からは、原発が輸出されてくる。
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