待遇格差訴訟、最高裁判決が真逆に割れたワケ 各種手当は認めた一方、賞与・退職金は認めず

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ボーナスが争点となった大阪医科薬科大も同様だ。アルバイトの秘書として働いた50代女性が正職員や契約職員には支払われるボーナスがゼロなのは違法だと争ったが、やはり職務内容の違いや配置転換の可能性の有無、登用制度の存在、そしてボーナスの支給目的(退職金と同様に「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図る」目的とされた)から、違法とはいえないと判断された。

大阪医科薬科大学の判決に原告側は「不当判決」と反発(記者撮影)

「退職金制度の構築に関し、使用者の裁量判断を尊重する余地は比較的大きいものと解される」。メトロコマース事件の判決で裁判長がこうした補足意見を付した通り、両判決とも経営者の裁量に理解を示した格好だ。

ただ両判決とも、単純に「企業側によった判決」と解することはできない。賃金項目ごとに目的や趣旨を個別に判断するという規範は同じであり、判決ではボーナスや退職金でも、格差が「不合理と認められるものにあたる場合はありうる」と指摘している。今後はボーナスや退職金であっても、その制度設計や運用の実態次第で、裁判所の判断が変わる可能性は十分にある。

そもそも今回の両事件は、東京高裁、大阪高裁が一定の支払いを命じる判決を出したことからもわかるとおり、不合理か否かはかなり微妙なケースだった。メトロコマース事件の判決では1人の裁判官が、「業務内容に大きな差はなく、格差は不合理だ」と反対意見を述べ、高裁判決を支持している。

欠かせない透明性の確保

「アスベスト被害の訴訟では、原告側は当初企業にも国にも負け続けたが、何度も戦い続けることで勝利することができた。今回は前に進めず申し訳なかったが、同一労働同一賃金をめぐる訴訟は始まったばかり。どんどん裁判を起こしてほしいし、労働運動でも声を上げてほしい」。大阪医科薬科大の元秘書は強く訴える。

実際、退職金については政府のガイドラインに記載がないなど、同一労働同一賃金の制度には曖昧な部分が多く、今後の司法判断の積み重ねが欠かせない。

いずれにせよ、いまや非正規の働き手は雇用者の4割弱を占めるに至っている。労働力不足が深刻化する中、正規非正規を問わず納得性の高い賃金体系への再構築など処遇制度の透明化は、生産性の向上のためにも欠かせないはずだ。

風間 直樹 東洋経済コラムニスト

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。2014年8月から2017年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、2019年10月から調査報道部長、2022年4月から24年7月まで『週刊東洋経済』編集長。著書に『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(2022年)、『雇用融解』(2007年)、『融解連鎖』(2010年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(2013年)など。

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