日本人が家庭環境による格差に目を背ける現実 データに基づかない教育政策への大いなる疑問
戦後の日本社会は高度経済成長期、バブル経済とその崩壊、長期低迷期などを経て大きく変化してきた。教育を受ける年数も大きく変化。中卒や高卒の集団就職があった時代は遠い過去となり、4年制大学進学率も2000年代の終わりには50%を超えた。一方、「教育格差」の一部である「子どもの貧困」が社会問題として指摘されるようになったのは2008年頃からにすぎない。
――1970年代や1980年代にも子どもの貧困が広範に存在した、と松岡先生は指摘しています。
「1985年の子どもの相対的貧困率は10.9%です。近年よりは低いですが、その年で15歳の学年人口は188万人。該当学年だけでも、約20万5000人が相対的貧困状態にあったと考えられます。
子どもの相対的貧困率が最も高かったのは2012年で、16.3%でした。当時、15歳の学年人口は120万人ですから、実数は1学年で約19万6000人。相対的貧困に直面している子どもたちの実数は、1980年代とあまり変わっていないことになります。実態として、多くの子どもが不利な状態にあったわけですが、記事のデータベースを調べてみると、1980年代当時、朝日新聞と読売新聞は『子どもの貧困』を報じていませんでした」
政策立案に求められる徹底したデータ主義
――松岡さんには文字どおりの『教育格差』(ちくま新書)という著書もあるほか、あちこちで精力的にこの問題に言及しています。そのポイント、狙いは究極的にはどこにあるのでしょうか。
「大人に対しては『今とは異なる社会のあり方を夢見ましょう』、子どもたちには『自分のことを諦めなくてもいいんだよ』と言っているつもりです。1人ひとりが人生の可能性を最大限に追求し続ける、何度でも学び直しが実質的にできる社会になれば、と願っています」
「社会のあり方を変えたいからこそ、戦後ずっと続いてきた教育格差という不都合な実態と徹底的に向き合う必要があると考えています。教育は誰でも受けてきた経験があるので、個人の見聞に基づいて意見を述べることができます。
1人ひとりが自身の経験を身近な人と共有するだけであればよいのですが、個人の見聞だけで『日本の教育は……』と社会全体の政策論に飛躍すると的外れになりえます。適切に収集されたデータで現状を多角的に把握したうえでなければ、効果的な対策を導き出すことはできないはずです」
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