実際、金沢大学ではVRを使った英語学習の実証実験を行っている。大学の外では、児童福祉分野でケースワーカーの家庭訪問研修をVRで行ったり、外食業界でアルバイトの接客や調理の研修をVRで実施したりといった事例が登場している。産業界ではリアル設備や機器を仮想空間にも構築する「デジタルツイン」技術が実用化されつつある。授業の真のデジタル化を支えるテクノロジーは出揃いつつあると言えるだろう。
オンラインを前提とした教育の議論をさらに深めていくと、長い歴史の中で積み上げたてきたこれまでの教育手法の見直しや取捨選択に迫られる。そして、「どのような人材を輩出したいのか」「そのためにどのような教育をどのような手法で提供するのか」という根源的な疑問にぶつかることになる。
大学は研究機関としての側面がある一方で、在籍する学生を卒業させ、就職させるという「教育機関」としての側面も存在する。教育機関としての役割を考えれば、オンライン教育を進めると同時に「From(どのような人材を迎え入れたいのかという入口=入試の定義)」と「To(どのような人材を輩出したいのかという出口=ターゲットとする人材マーケットの定義)」の2つの点で、自学の「教育機関」としての在り方の再定義が求められているのではないだろうか。
オンライン化は教育改革、入試改革に連動
授業のオンライン化は、単なる時代の変化への追随ではなく、各大学に建学の理念にまでさかのぼりながらの「自学の再定義」を突きつけるものだ。なぜならば、昨今の企業は「ジョブ・ディスクリプションに基づくジョブ型雇用」へと移行しつつある。大学に置き換えると「3つ(ディプロマ・カリキュラム・アドミッション)のポリシーに基づく、実態としての実践」が極めて重要と考えられる。これがいま進行中の教育改革の本流だと筆者は考え、日々、大学関係者とディスカッションを重ねている。
もう読者はおわかりだと思うが、オンライン講義の整備や制度化は単なるツールの話ではなく、各大学の未来をどう描くのかという「教育改革」と同根のテーマなのである。
ここまで授業のオンライン化について考察してきたが、教育機関にはもう1つの重要な要素がある。すなわち「入試」だ。なぜ入学試験は、キャンパス内で監督官の監視のもと、1つの空間に集合して集団で実施しなければならないのだろうか。それは現在の「学力判定」を行うマークシート式試験方式がカンニングなどの不正行為に対して“弱い”からである。
そもそも試験は選抜のためのものである。では、どのような基準で受験生を選抜するのか。先述した「From(入り口)」にふさわしい学生かどうかが、その判定の基準である。昨今の資格試験の多くがオンラインに移行しているように、性善説に立つならば入試もオンライン化は可能である。とはいえ、入学の公平性という観点から、不正防止の難易度は格段に上がる。
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