自宅で取材なんて不可能と思う人の大きな誤解 アメリカの調査報道はコロナ禍で激変した

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会議参加者たちの顔ぶれを見ていて、ある共通点に気がついた。大半の人が、肩書を「Investigative Reporter(調査報道専門記者)」としていることだ。

そもそも調査報道とは、日本人の多くが日常的に触れている「報道」とは一線を画すと理解されている。日本での一般的な報道とは、例えば、行政や企業などの組織が発表した情報について、「●●によると」と情報源を記載したうえでデータや発表内容を示している。しかし、発表されたデータや内容の信憑性については、記事上でほとんど触れられていない。

一方、世界各国で行われている「調査報道」は、データや発表内容そのものの信憑性を問う。

日本のマスメディアにはない文化

記者が独自に統計や新たな情報を取ったり、データを取り直したりしながら、公式発表との差異をあぶり出す。会議に参加した記者たちが「調査報道専門記者」という肩書を当たり前のように使っているのは、結局、調査報道と一般的な報道との違いが社会に広く認識されている証拠でもある。これは取材部門が「政治部」「経済部」「社会部」などと分野ごとに縦割りになっている日本のマスメディアにはない文化だ。

会議に参加した調査報道専門記者の1人、「ニューヨーク・タイムズ」のダニエル・アイボリー記者は、コロナに関するスクープを飛ばした。この4月、全米各地の高齢者介護施設で集団感染が拡大している実態を、他メディアに先駆けて報じたのだ。これによって、アメリカにおけるコロナ禍は想像以上に拡大しているという認識が社会に広まった。

「私のチームが取材を開始したのは3月中旬です。当時は、各州が高齢者介護施設での感染件数を公表していなかったので、各施設に電話をかけて感染件数を確認しました。手作業です。すると、施設の利用者・関係者のコロナによる死亡が、全米で少なくとも7000人に達することがわかりました」

ニューヨーク・タイムズのダニエル・アイボリー記者(撮影:大矢英代)

その後、各州政府は施設での死者数や感染件数を公表するようになった。しかし、情報を鵜呑みにし、そのまま記事に引用することは調査報道ではタブーだ。実際、データを詳しくみていくと、死者数だけを公開する州もあれば、実際の発生件数とは異なるデータを公開した州もあった。

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