太田光「M-1審査員の依頼があっても断るワケ」 「漫才が天職」とは自分では一切思っていない

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つまり、感情表現には型があるということ。人形浄瑠璃もそうでしょ? これは、日本の芸能とそれを感じ取れる日本人のすごいところだと思うんだけど、ただの人形が泣いているように見えるのには、その型があるということだから。

もちろん、芸における型は日本の伝統芸能だけのものじゃなくて、たとえばハリウッドの名優を数多く輩出してきたアクターズ・スタジオの演技の基礎は、ソ連時代のスタニスラフスキーシステムによるところが大きい。

じゃあそのシステムがなにを伝えようとしたかというと「型は大事だよ」ということ。そういう海外の演技メソッドよりも、ずっと昔から、そのことに気づいて極めようとしてきた日本の古典芸能は本当にすごいと思う。

ただ、演技の技術も、感性という別の要素に左右されるのが、少々ややこしい。型があるのならば、誰でもそれを習得できそうなものだけど、実はそうでもないということを俺は経験したことがある。

技術を育てるベースとなる感性

作家にダメ出しをしないでくれと言うぐらいこの世界の正解みたいなものをわからないと思っているから、俺自身もほかの芸人から相談されることが嫌で嫌でしょうがない。

それでも一度だけ、事務所の後輩がコンビを解散するかもしれないという時期だったので、彼らの漫才の演出的なことを手伝ったことがあった。

これがまぁ、無理だった。その場面ではこの型、その時はこんな感じでなどと自分なりにわかりやすく伝えたつもりでも、彼らには再現できなかった。おそらく、スポーツと同じなのだと思う。野球のバッティングで「このフォームで打ってください」と優秀なコーチが教えても、やっぱりできない人はできないし、野球感性みたいなものがすぐれた人は、すぐに打てるようになる。

では、技術を育てるベースとなる感性を才能と呼ぶのか? もしそうだとするのなら、話は最初に戻って、俺にはやっぱりよくわからない。ひとつだけ言えることがあるとすれば、もし、若い読者のなかで「俺には才能がないのかもしれない」などと悩んでいるやつがいるとしたら、そんなものは入り口でしかないということ。

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