日本が「都市のIT化」で世界に遅れた苦い事情 「スマートシティ」が日本で実現しなかった訳
北海道洞爺湖サミットで、日本政府は「温室効果ガス排出量を2050年までに半減する」との長期目標を提案する。参加各国の合意は得られなかったが、このビジョンを実現すべく経済産業省では、ITを活用した経済構造改革に向けて、「2050研究会」を2008年10月に立ち上げた。
こうした一連の施策を安倍首相時代にお膳立てしたブレーンの1人が、経産官僚の前田泰弘氏(現・中小企業庁長官)と言われる。
スマートシティが日本で実現しなかった訳
2050研究会では、欧米とほぼ同じ時期にスマートシティやスマートグリッドなどの戦略を検討していた。半年ほど活動して最終報告書も作成されたが、未公開のまま解散した。
当時の資料はほとんど残されていないが、筆者の手元にある「2050研究会の提案~共有経済・共創社会の構築は可能か~Can we establish Sharing Economy and Co-creation Society」(2009年6月)と題した資料によると、アメリカでAirbnbやUberが創業したばかりの頃に、日本でもITを活用した「シェア経済」モデルの導入が検討されていた。
なぜ、2050研究会の報告書は公開されずに握りつぶされたのか――。
スマートシティの重要テーマにはエネルギーの有効活用がある。そのターゲットは電力の送配電網だった。欧州では、すでにデンマークなどの北欧で風力発電、スペインなどの南欧では太陽光発電などの再生可能エネルギーの普及が始まっていた。
風力、太陽光ともに発電量が不安定になるが、スマートグリッド(賢い電力網)であれば双方向に電力を融通することができる。これに電気自動車や家庭用蓄電池などがつなげ、電力を融通し合うスマートシティの将来像が描かれた。
しかし、こうしたスマートシティの将来像に強く抵抗したのが日本の電力業界だった。欧州型のスマートグリッドが導入されれば、発電事業と送配電事業を分離する「発送電分離」が一気に進む可能性がある。
「2050研究会には電機メーカーやITメーカーも参加していたが、大口顧客である電力業界に明らかに配慮していた」と、2050研究会に関わっていた経産省OBの伊藤慎介氏(現・リモノ社長)は証言する。
筆者も当時、前田氏に報告書を公開しない理由を聞いたが、言葉を濁しただけだった。結果的に、日本ではスマートシティ構想は具体化せずにしぼんでいく。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら