日本が「都市のIT化」で世界に遅れた苦い事情 「スマートシティ」が日本で実現しなかった訳

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この財団には、NECが2017年3月にプラチナメンバーとして参画。その後、日本でもスマートシティの支える「都市OS(基本ソフト)」として、FIWAREが香川県高松市、兵庫県加古川市などに導入されている。

中国がスマートシティの整備に乗り出したのは2012年の暮れだ。欧米からは2~3年遅れたものの、2013年の初めには90都市以上でスマートシティを推進することを決定した。

特に中国の場合は、国家プロジェクトなので予算の心配はなく、個人情報の取り扱いで住民合意などを得る手続きも必要がない。住民の監視システムなど、スマートシティの新しいサービスやアプリの開発が一気に進み出した。

世界の潮流に乗ることができるか

経産省の「2050研究会」から11年後の2020年4月、日本では発電事業者と送配電事業者をわける「発送電分離」がようやく実現した。太陽光発電の導入も進み、再生可能エネルギーの電源構成割合も約17%となった。

経産省では7月に「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」を立ち上げ、梶山弘志経産相は「当面10年間は年100万kw(計1000万kw)、2040年にかけては3000万kwを超える導入」という方向性を示し、再生エネの主電源化の取り組みを本格化させている。

経産省は、6月に成立したエネルギー供給強靭化法に基づいて、再生可能エネルギー普及に必要な広域送配電網の仕組みを見直す検討に着手。すると、間髪入れずに電力業界からは「安定供給に不安がある」「電力の安定供給に影響を与えるルール改正はいかがなものか」との慎重論が飛び出してきた。

「結局、この10年間、再生可能エネルギーの本格導入に向けた議論をサボタージュしてきたということ」と、ある再生可能エネルギーの業界団体幹部はため息を漏らす。「電力の安定供給」と「電気料金の維持」を盾に、実質的に発電と送配電が一体的な経営が行われているのが実情だという。

2018年9月の北海道胆振東部地震、同年9月の台風21・24号や2019年9月の台風15号などの自然災害で、ブラックアウトや大規模停電が発生しており、今後は送配電網の強靭化や電源分散化は不可欠だろう。

さらに、日本企業もSDGsへの取り組みを強化。事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際イニシアチブ「RE100」に参加する日本企業も増えている。

2020年末までには、強靭な電力ネットワークの形成と、電力システムの分散化を実現するための新しい制度がまとめられる見通しだ。

「再エネ型経済社会」の創造に向けて、オープンな分散型「スマートグリッド」が日本で実現するのか。11年前と同じ轍を踏むようであれば、日本のスマートシティはますます世界の潮流から取り残されることになる。

千葉 利宏 ジャーナリスト

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ちば・としひろ / Toshihiro Chiba

1958年北海道札幌市生まれ。新聞社を経て2001年からフリー。日本不動産ジャーナリスト会議代表幹事。著書に『実家のたたみ方』(翔泳社)など。

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