シシド・カフカが語るライブ活動の「現在地」 コロナで音楽をやめた人は周りにいなかった

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「私、ステージに立つと、なぜかいつも歓声や拍手は聞こえないんですよ。あとからムービーを見て『こんなにみんな反応してくれてたんだ』と初めて気づくんですけど。それなのにお客さんがいないとこんなに心細くなるんだっていうのは改めて発見できたことですね。

それでちょっと拍子抜けしたんですかね。いつも本番の成功率を上げるために、リハーサルでは多く多く、難しく難しく、本番以上のサインを出すんですけど、配信でリハーサルの気分になっちゃったのか、ちょっといたずら心なのか、いつもより厳しいサインを出したかな」

8月に行った無観客ライブ。パーカッショニストの前にいるのがシシド。ライブ後にメンバーと楽屋で反省会や打ち上げをする様子も配信された(写真:ケイダッシュ提供)

el tempoはこの10月で2周年を迎える。メンバーはみなそれぞれの活動で忙しく、頻繁に会って練習できるわけではない。本番前に1、2回、全員そろえばいいほう。その貴重な練習時間では、「体育会系な反復練習」を行い続けた。ハンドサインを見ながら相手の音を感じて演奏するには、頭で考える前に体が動いていないとならない。その感覚を、ひたすら練習を繰り返すことで体に叩き込む。

「部活って言葉を私たちよく使うんです。部活っぽく、ディスカッションしながらバンドをつくっていく。この2年でその空気感は大きく育ったかなとは思ってます」

2年経ってようやく「メンバーが楽しそうになってきた」とも語る。ハンドサインにすぐに反応できない苦しさは今もあるが、それも含めて楽しみながらライブができるようになった。

目指すのは新しい空間の創出

el tempoを通じてシシドが目指しているのは、単に音楽を聞くことだけにとどまらない「新しい空間」の創出だ。それは、創始者のバスケスの目指していることでもある。

「彼自身のバンドだと、同じ空間の中でご飯が食べられて、お酒も飲めて、必ず卓球台があって。1部と2部の間は必ずDJが音を流してて。もちろん音楽は聞きに行ってるけれども、仲間とのコミュニケーションの場もつくり出してるんです。その空間を初めて見たときに感銘を受けた。日本でそういう空間をつくるにはまだまだ時間がかかると思ってます」

新しい生活様式が必要とされるようになり、el tempoの理想の空間づくりや、音楽としてのありようは、もしかしたら方向を変えざるをえないかもしれない。「本音を言えば、ただただもとに戻るのを願っている」と語るが、ただ待っているだけでなく、今、できる限りの可能性に向かって、シシドは走り出している。

その1つが、ブルーノート東京で行われるライブだ。コロナ禍の前から予定していたライブだが中止も含めて検討した結果、収容人数400人のところ120人まで制限し、全員着席。同時に有料ライブ配信を行うことになった。2月から実に8カ月ぶりのライブである。バンドはこれまでパーカッションとドラム、ベースのみだったが、今回はゲストにギターとピアノ奏者を迎え、新たな音作りに挑戦する。

次ページ新たな在り方を模索
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事