労働市場改革の経済学 正社員「保護主義」の終わり 八代尚宏著 ~「誤った労働規制」に対し強い警鐘を鳴らす
鳩山首相は1月末の施政方針演説で、内閣の使命として「人間の幸福を実現するための経済を作り上げること」を掲げた。経済の究極的目標が、国民の経済厚生の向上であることを考えれば、適切な方針といえるだろう。それでは具体策は語られたか。
多くの点で具体策の欠如が指摘されたが、雇用に関しては、それが大きな社会問題であることから、新政権から既にさまざまな政策が打ち出され、施政方針演説でも触れられている。
まず、非正社員に対し雇用保険の対象拡充が示された。従来、日本では増大する非正社員に対し十分なセーフティネットが用意されていなかったため、望ましい政策といえる。それでは派遣労働法を改正し、登録型派遣や製造業への派遣を原則禁止とするのは適切か。不安定な非正社員を減らし、できるだけ正社員を増やしたいということなのだろう。
しかし、景気変動にさらされやすい製造業で、すべてをコストの高い正社員にすれば、生産拠点の海外移転が加速し、国内の雇用機会そのものが減ってしまう。海外移転が難しい中小企業では、採用を不況期の生産量に対応した水準に抑え、好況期には正社員の長時間労働で対応ということにならないか。
本書は、安倍・福田政権で経済財政諮問会議の民間議員を務めた正統派の経済学者が、望ましい労働市場改革を論じたものである。誤った方向で進む労働規制に対し、強い警鐘を鳴らす。
非正社員が増えたのは規制緩和の影響だとされているが、実際は、高成長時代の産物である日本型雇用慣行を、低成長時代になっても大企業の労働組合と経営者が固守したため、不況期の調整弁として非正社員へのニーズが増えたことが原因という。