「日銀化」が明らかとなってきたECBの金融政策 為替に隷属しカードを費消する「いつか来た道」
では、仮に7月までのユーロ高が8月分までのHICPに影響を与えたとしてみよう。ECBが日次で発表する名目実効為替相場(複数の通貨との関係で為替の実力を見たもの、主要貿易相手国 42カ国ベース)は2月初めから7月末までの6カ月間で約6.8%上昇した。この約6.8%の上昇を上記の「1%のユーロ高で0.035%ポイントのHICP押し下げ」に当てはめればHICPを0.2ポイント強、押し下げるという話になる。
今年2月時点ではHICPの総合およびコアベースは共に前年比1.2%の伸び率を維持していた。それが今年8月時点では総合で同マイナス0.2%、コアベースで同プラス0.4%になったのである。この6カ月で発生したマイナス1%ポイント以上の下振れの大きな部分をユーロ高(試算に基づけばマイナス0.2%強の下押し効果にとどまる)で説明しようとするのは無理がある。
ラガルド総裁の「実際のところ大部分はユーロ高に起因している(largely attributable actually)」という発言はECBにとってショッキングな結果である「物価低迷」と「ユーロ高」を反射的に結び付けただけなのではないか。
懸念すべきはサービス物価
もちろん、今後数カ月間でユーロ高がHICPの伸び率をさらに抑制してくる効果はあろう。だが、前掲のHICPの中身にも示すように、少なくとも現時点に限れば物価低迷の大部分はエネルギー価格に起因したものだ。要するに、ユーロ高というよりも春先以降に発生した(前年比での)原油価格下落が寄与している。
一方、賃金との相関が高いと思われるサービス物価もここにきて失速が目立つことから、単にエネルギー価格だけの問題とは割り切れない深刻さを秘めているのも確かだ。8月のサービス物価は前年比プラス0.7%と統計開始以来で最低を記録している。サービス物価は全体(総合)の振れと比較すれば抑制された動きが続く傾向にあったが、ここにきてはっきりと失速し始めている。これが本来は下方硬直性を持つはずの賃金下落の影響だとすれば、ECBが警鐘を鳴らすべきはサービス物価の低迷であって、ユーロ高ではないようにも思われる。
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