中国経済の近未来を決定づける「双循環」の行方 海外との交流は継続か、それとも縮小するのか

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ただ、「双循環戦略」を急ぐ背景には米中対立、それに伴う技術の流れの停止、アメリカ市場での中国企業の活動の制約、西側諸国のサプライチェーン見直しの動きへの「恐怖」がある。ファーウェイの子会社であるハイシリコンは半導体の設計・開発に特化し、生産は台湾のTSMCへ委託していたがアメリカの制裁でTSMCから調達できなくなった。中国の半導体製造業者であるSMICはTSMCから2世代遅れている。中国の先端技術分野での「自力更生」への決意は強固であろう。

「完全輸入代替」「自給自足」への転化リスク

米中対立が激化する中では、「内需重視」の掛け声が、歪んでいる「消費」「投資」「輸出」のバランスの回復という次元を超えて、「完全輸入代替」「自給自足」に転化していくリスクがある。アメリカ内でも対中全面デカップル論と技術分野等に範囲を絞った部分分離(partial disengagement)論などさまざまな意見がある。中国においても、「双循環戦略」という言葉に対して、論者によりさまざまな思いが投影されている可能性がある。

「双循環戦略」は、国有企業改革や金融セクターの自由化などの中国経済自身が現在かかえる課題の解決を盛り込むことで、輸出や投資に過度に依存しない、生産性向上を通じた新たな成長モデルにつながる可能性もある枠組みである。最終的な結論がどうなるかは大いに注目される。

南シナ海、尖閣諸島、香港、新疆ウイグル自治区等で中国が見せる異なる価値観、国際ルール違反の行動に対し国際社会は警戒が必要であり、技術分野等での一定の部分分離は自由社会を守るために必要であろう。しかし、西側が国内雇用維持や重商主義的衝動に基づき中国を過剰にデカップルする動きを見せれば、中国も外との交流を絞る形での「双循環」を志向するだろう。

2018年9月、視察先の黒竜江省で習近平主席は、「保護主義の台頭が中国に自力更生の道を歩むよう迫っている」と発言した。作用は反作用を生み、ナショナリズムは相互作用を増幅する。海外との交流を断つ経済政策は、中国にとっても世界にとってもマイナスが大きい。「双循環戦略」の行方が注目される。

(大矢伸/アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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