日本で「肉食がタブー」とされた意外な歴史事情

1300年前には「肉食禁止令」まで発布された

さて、ここで江戸幕府の5代将軍綱吉の話をしよう。綱吉といえば、極端な動物愛護令である生類憐みの令を次々に出し、人々を苦しめた暗愚な人物というイメージがある。ところが近年の教科書では、次のように記されているのだ。

「綱吉は仏教にも帰依し、1685(貞享2)年から20年余りにわたり生類憐みの令を出して、生類すべての殺生を禁じた。この法によって庶民は迷惑をこうむったが、とくに犬を大切に扱ったことから、野犬が横行する殺伐とした状態は消えた。

また、神道の影響から服忌令(ぶっきれい)を出し、死や血を忌みきらう風習をつくり出した。こうして、戦国時代以来の武力によって相手を殺傷することで上昇をはかる価値観はかぶき者ともども完全に否定された」(『詳説日本史B』山川出版社、2015年)

近年は評価が変わりつつある徳川綱吉

意外に思うかもしれないが、プラス評価に変化しつつあることがわかるだろう。ただ、教科書にある「死や血を忌みきらう風習をつくり出した」ということについて、綱吉は異常性格者で、彼の生類憐みの令は、血の穢れを病的に嫌う綱吉の異常さから発布されたのだという説がある。

これを説いたのは国文学者の前田愛氏である。前田氏は、綱吉が生類憐みの令を出したのは、教科書に記すような、野犬が横行する殺伐とした風習を改め、死や血を忌み嫌う社会をつくるためではなくて、「血の穢れを忌み嫌う綱吉の奇妙な性癖にもとづくことを示唆している」(『幻景の明治』筑摩書房)と述べている。

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その証拠として、蚊をつぶして頬に血を付けた武士を処罰したり、綱吉の下着に血がついていたことに腹を立て、担当者に閉門を申しつけたりしたことをあげた。

さらに、1689(元禄2)年8月に触穢の禁令を発し、鼻血や痔、腫れ物などを患っている者は入浴しても穢れを清めるのは不可能だから、登城や出仕してはならぬと命じたことを根拠に、「綱吉は、べつに動物が好きであって、これを愛護したわけではなく、むしろ、動物を怖れ、血などの穢れを嫌ったから生類憐みの令を出したというのは、なんとも意外であろう。それを殺害したり、虐待したりする結果としてあらわれる、恨み、祟りや、血の穢れを、恐れ、忌み嫌ったのだ」(桑田忠親著『徳川綱吉と元禄時代』秋田書店)と結論づけたのである。

いずれにせよ、日本人は死体だけでなく、動物や肉食、出産、血など多くのものを穢れと考え、大昔からそれに触れぬよう生活してきたのである。

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