「DVが殴る蹴るだけ」だと思う人の大いなる誤解 世代間で連鎖する「自覚なき加害者」の奥底
戸惑いながら「ステップ」に電話をかけ、「別居中の妻から行けと言われて。でも、自分にDVは関係ないと思うんですけど」と説明した。電話口の担当者は、加害者向けのグループプログラムを見学してはどうか、提案する。いったい、どんなところだろう?
山本さんが見学したのは、「金継ぎの会」と呼ばれる更生プログラムだった。5~10人のグループセッションで、特定のテーマについてディスカッションしたり、パートナーとの近況を報告し合ったりする。1回2時間、全52回のプログラムだ。
しかし、見学に行ってもどこか他人事だった。参加者たちの言葉に触れても、いすの背もたれにすっかり身を預けているだけ。「ひどいよなぁ、なんでそんなことをするんだ」と評論家のように思いもした。それでも、妻には「努力して」と言われている。自分は関係ないが、ここに通わないと後がない。そして、山本さんは全52回のプログラムに参加することになった。
更生プログラムに通い始めた山本さんはどうなったか。「3、4回目で、自分には変化が訪れた」と山本さんは振り返る。プログラムの中で、言葉の暴力や威圧的な態度もDVに含まれると知り、「自分の行為はDVだったかもしれない」という加害者意識が芽生えたからだ。
「みんな自分を正当化しようとする」
グループセッションでの「他者の中に自己を見る」という経験も効いた。
「人を傷つけたことに向き合うのって怖いから、やっぱりみんな自分を正当化しようとするんです。反省はしていても、言葉尻に出てくる。『そんなつもりはなかったんだけど、向こうが傷ついちゃって』とか、一生懸命言い訳するんですよね。それを見ていて、ああ、俺もこうなんだろうなぁと自覚するんです」
加害者意識が芽生えて以降、妻がどう傷ついていたのか、そこに思いがいくようになった。妻だけではない。過去には、仕事仲間や後輩にも叱責や詰問を加えていた。これまでの人生で、どれだけの人を傷つけてきたのか。そう思うと、酔いがさめたように怖くなった。
更生プログラムに通い始めて2カ月ほど過ぎた頃、山本さんは妻と再会を果たした。「ステップ」の理事長・栗原加代美さんの提案で、第三者を交えた対話の場を設けることにしたのだ。
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