(第30回)いつの間にかのスリム法・その8

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山崎光夫

 前回、貝原益軒の推奨野菜として大根を採りあげた。大根こそ最上の野菜という。
 『養生訓』の中で、「脾(ひ)(注・消化器)を補い、痰(たん)(注・水分の停滞による身体全体の異常)を去り、気をめぐらす」とし、常に食うべしと重視している。
 そこで私も益軒にあやかり、常々、大根を食卓に載せるようにしている。野菜室にほぼ1年中常備している。おろしにシラスをまぶすシラス大根が定番だが、千六本の味噌汁や揚げ出し豆腐にも欠かせない。

 さらに、私の郷里・福井の越前おろしそばにはなくてはならない。おろしそばは福井に400年以上前から伝わる伝統料理。この料理を一言でいえば、ザルそばに大根おろしをかけて食べるだけのもの。薬味として、好みでネギやカツオ節、七味唐辛子などをまぶしてもよい。
 そばは食物繊維の多い、低カロリーのバランス良好食品だから、肥満とは無縁である。
 福井の定番・おろしそばは、どこの家庭でも今日から味わえる簡単メニューである。
 益軒がおろしそばを食べたかどうかは分からない。ただ、益軒の生地、福岡はうどん文化圏。現代に生きていたら、“筑前おろしうどん”を提案したかもしれない。

 私が大根以外に常備している食品は納豆である。以前は納豆菌を特注し、時折納豆を手作りしていたものである。大豆が原料の納豆は畑の豚肉といわれるほど、たんぱく質に富んでいる。しかも、腐敗菌ながら納豆菌は消化を助けるので消化、吸収もよい。優良ヘルシー食品である。
 メニューに窮したとき、「納豆丼」はいかがだろうか。
 まず、大きめの器に生卵1~2個をとき、その中に納豆をいれ、さらに次のような食材を、あるものだけ、気が向いたものだけを入れる。ネギ、おくら、ハムのみじん切り、シラスなど、何でも好みの物を入れて混ぜ合わせる。
 これを小ぶりのフライパンでそっくりそのまま玉子焼きの要領で裏表を焼く。焼けたらこの納豆五目焼きを、丼によそったあつあつご飯の上に乗せれば「納豆丼」の出来上がりである。
 益軒は『養生訓』では、納豆について触れていない。が、他書で「鼓(し)」という表現を使って納豆の作り方をていねいに記している。納豆という食品の知識を持っていた。
 「納豆丼」を知ったなら、益軒も好物にしたと思われるがいかがだろうか。

 益軒推奨の具体メニューは朝粥(あさかゆ)である。
 『養生訓』で、「朝早く、粥を温(あたたか)に、やわらかくして食えば、脾胃(ひい。消化器)をやしない、身をあたため、津液(しんえき。唾液)を生ず」として絶賛している。
朝粥は消化器に優しく、身体を温める健康メニューである。
 最近、ビジネスホテルのバイキング方式による朝食で、朝粥も定番化されている。まさに益軒方式の採用である。

 朝粥を食し、大根と納豆の常食でバランスのよい栄養摂取をはかれば、益軒なみのスリムと長命が得られるにちがいない。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
山崎 光夫 作家

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やまざき みつお / Mitsuo Yamazaki

1947年福井市生まれ。早稲田大学卒業。TV番組構成業、雑誌記者を経て、小説家となる。1985年「安楽処方箋」で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。主な著書に『ジェンナーの遺言』『開花の人 福原有信の資生堂物語』『薬で読み解く江戸の事件史』『小説 曲直瀬道三』『鷗外青春診療録控 千住に吹く風』など多数。1998年『藪の中の家 芥川自死の謎を解く』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。

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