「全員が内田篤人になれない」引退J選手の現実 アスリートの「働き方改革」は加速していくか

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「西日本のJクラブ担当として、現役選手の学びの支援をするのが僕の仕事の1つでした。彼らの意向を聞きながら、インターンシップの機会をできる限りつくって提供したんです。当時の参加者は限られていましたけど、これまで見たことのない世界を見てもらうという意味は大いにあったと思います」

浦和レッズや大宮アルディージャでプレーした2000年代に、同制度を積極活用した1人が水戸ホーリーホックのジェネラルマネージャ(GM)を務める西村卓朗さん(43)。市立船橋サッカー部出身の芸人として知られるワッキー(脇田寧人)の兄が経営するスポーツマネジメント会社やラジオ局、広告代理店などで、12月のオフ期間を利用して短期間就労を経験した。

「僕らが選手だったころは『サッカー選手たる者は競技に集中すべき』という考え方が根強く、『引退後に備えて活動することは悪』ととらえられがちでした。でも僕自身は、インターンシップを通してサッカー選手の存在を客観視できた。多種多様な職場を見せていただき、社会とつながることは選手生活にもプラスに働くと確信したんです」

その経験を踏まえ、西村さんは水戸の強化部長となった2018年から、週1回ペースの選手教育を実行に移した。今年は(1)クラブの構造、(2)専門領域、(3)異業種、(4)脳トレの4テーマを設定し、3〜11月にさまざまな講師を招いて話をしてもらっている。

「Jリーガーとしての使命感を持ってもらうのが第一。そうすれば自ずと行動も変わってきますし、何のためにサッカーをやっているのか、自分がどうやって人々に貢献するのか、今後どう生きるのかというビジョンを描くことにもつながる。サッカーで身につけたことを世の中に還元できる人材になってもらいたいというのが僕の願いなんです」

現役中からキャリアを学ぶ意義

APOLLO PROJECTにはラグビー日本代表元キャプテンの廣瀬俊朗さんも参画(写真:筆者撮影)

西村さんとともに水戸で選手教育に携わる山内さんもこの7月、ラグビー日本代表元キャプテンの廣瀬俊朗さん(38)らとともにアポロ・プロジェクトを設立。アスリートの価値を最大限に高め、還元するプラットフォームを構築しようと動き始めたところだ。

彼らはアクションプランとして、アスリート向け教育事業「A-MAP」を運営。パートナー企業である大前研一学長のBBT大学(ビジネス・ブレークスルー大学)を通じて現役・元アスリート向けに開発したマインドセットプログラムを提供する。

すでに大相撲の中村親方・嘉風雅継さん(38)が2021年1月からの第1回受講生となることが決定。サッカー界からも希望者を募っているところだ。

「受講生には自らがホストとなって自治体や企業と連携し、それまで競技を通して培ってきた自身の強みやA-MAPで学んだことを生かし、社会課題の解決につながるイベントやプロジェクトを企画・運営するところまで力をつけてもらうつもりです。

そうやって自ら旗を掲げ、発信できるような人材になれれば、現役選手としての価値を高められますし、結果的に引退後も自分らしいキャリアを送れる。僕ら元Jリーガーも経験を踏まえてサポートしていくので、ぜひ積極的に学ぼうという人が増えてほしいですね」

山内さんが前向きに言うように、現役中、あるいは引退直後に自分から何かを学んで発信しようとマインドを変えられる人間が多くなれば、Jリーグの価値も上がり、引退後の活躍の場も広がるはずだ。

冒頭の内田さんのように、現役時代のハイレベルな実績や経験を生かして現場に還元する人ももちろん重要だが、それだけに頼らないセカンドキャリアの成功例がどんどん出て、引退後の選択肢が広がれば、サッカー界はより魅力あるものになる。

令和の時代になった今、一般のビジネスパーソン同様、スポーツの世界においても「アスリートの働き方改革」の必要性は否が応でも高まっている。

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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