居酒屋・金の蔵が、あの「チカラめし」に頼る事情 苦境打開へ昼と夜の“二毛作"営業を開始

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経営存続が問われるほどの苦境下で、三光フーズはランチ需要開拓のほかにも複数の挽回策を掲げる。

その1つが、経営スリム化のためのリストラの徹底だ。2020年6月期の居酒屋業態など40店舗超の閉店に続き、今2021年6月期も現時点で9店舗の閉店を計画。人員整理にも着手し、今期中に50人程度の希望退職を募る予定だ。

一方で、安定収益源の確保を狙い、外食以外の新事業や新業態の育成も模索する。小粒だが安定した収益を上げる、オフィスワーカー向け弁当販売事業や官公庁内の食堂運営事業の売り上げを伸ばしていく。

既存ブランドの底上げにも力を注ぐ。コロナでも売り上げがそれほど落ちなかった、もつ煮込みが売りの居酒屋「アカマル屋」や「焼肉万里」などの業態を店舗拡大する。総合居酒屋は夜と昼営業の二毛作作戦でテコ入れを図る構えで、金の蔵は冒頭のようにチカラめしを入れ、チカラめし調理に対応する機械が入っていない東方見聞録などのチェーンには、ランチ向けにサラダバーを導入する。

苦しい総合居酒屋

外食業界の現状を見渡すと、居酒屋チェーンの売り上げの戻りには大きな差がある。多くの居酒屋が店舗休業した4~5月こそ、各社軒並み前年同期比1割程度の売り上げだったが、串カツチェーンの「串カツ田中」や焼き鳥の「鳥貴族」といった専門居酒屋は7月には全店売上高が同7割程度まで復調した。対して、三光フーズや「ミライザカ」「和民」を展開するワタミ、「はなの舞」のチムニーなど総合居酒屋を展開するチェーンは、同3~4割程度の水準でしかない。

前述の小島アナリストは「総合居酒屋の悪いところは、個性がないところ。例えば、鳥貴族ならば『焼き鳥』というイメージがすぐに湧くが、『金の蔵』と聞いても何が売りの居酒屋かピンと来ない。今後は、個性があり、専門性が高い飲食店でなければ生き残れないだろう」と指摘する。

ワタミは居酒屋業態を中心に、2021年3月期中に65店舗を閉める一方で、持ち帰り空揚げ専門店の「から揚げの天才」や焼き肉「上村牧場」などについては積極出店を行う方針。チムニーも居酒屋業態を中心に2021年3月期中に72店舗を閉め、「焼肉牛星」や和食「はなの屋」など専門業態の育成を急ぐ。

苦戦中の居酒屋チェーンは大量閉店、業態転換、昼営業といった生き残り策を手探りで進める。こうしたコロナ禍での取り組みが、アフターコロナの時代に効果を発現する可能性はあるだろう。しかし、残された時間は限られている。三光フーズによる、かつての主力ブランドに頼る二毛作作戦が吉と出るか凶と出るか。業界全体の行方を占う1つの試金石となりそうだ。

中尾 謙介 東洋経済 記者

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なかお・けんすけ

1998年大阪府生まれ。現在は「会社四季報」編集部に在籍しつつ水産業界を担当。辛い四季報校了を終えた後に食べる「すし」が世界で1番美味しい。好きなネタはウニとカワハギ。

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