台風が「大型化・凶暴化している」のは本当か 大型=大きな被害をもたらすという訳でもない

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筆保教授らによる調査では、日本に上陸したときの台風の強度は、近年、増大化する傾向がみられました。これはなぜでしょうか。筆保教授は2つの原因が考えられるといいます。

1つ目の原因として、強い台風が日本に上陸するケースは、海上で迎える台風の最盛期の強度が、平均よりも強いことが考えられます。その場合、台風が日本に近づくにつれて勢力を弱めたとしても、上陸した時点でも強くなります。しかし、半世紀前までは海上での気象観測が十分でなかったので、昔と比べて海の上でも強くなっているどうかは確かめられません。

もう1つの原因としては、海上で発達した平均的な台風が、北上しても勢力を保ったままで、強いまま日本に上陸するというケースが考えられます。

「去年の台風15号の場合は、記録を塗り替えるほどとても強い勢力で関東地方に上陸しました。しかし、海上での強度はそこまで強くありませんでした。それは、日本近海の海面水温が高い状態だったために、勢力を弱めずに関東に上陸したことが原因です。この台風に関しては後者のケースが当てはまります」(筆保教授)

台風サイズの傾向はあまりわかっていない

さて、台風の水平方向のサイズについてはどうでしょうか。台風の水平方向のサイズについては定義がさまざまで、研究者によっては雲の塊の大きさのことを指す人もいるのですが、気象庁は風速毎秒15mの半径を台風の大きさと定義しています。今回の記事でも気象庁の定義をもとに話をしようと思います。

皆さんの中には、地球温暖化のせいで台風がどんどん巨大化しているのではないかとおそれている人も多いのではないでしょうか。しかし、筆保教授によると、「台風のサイズに関する研究はあまり進んでいません」といいます。

意外に思えるかもしれないのですが、「大きい台風は怖い」とは限りません。台風の強さは、中心気圧の低さだけでなく、中心付近の風速でも判断します。風の強い台風こそ、「強い台風」ということになります。

では、台風がもたらす強風はどのように決まるのでしょうか。それは、「台風の中心気圧」ではなく、「台風の中心に向かってどれだけ気圧低下の変化が大きいか」になります。天気図で台風を見ると、等圧線が何重にもグルグルに引かれています。台風によって、グルグル過ぎて中心付近が真っ黒に塗りつぶされているようなものもあれば、そうでないものもあります。前者では風が強くなり、後者は比較的弱くなるのです。

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