雅美さんの場合はこの決断が吉と出た。ビール好きが集まる飲み会で隣に座ったのが、現在の夫である同い年の啓介さん(仮名)だったのだ。
「彼だけでなく、参加者全員が普通に話せる人たちでした。正直言って、結婚相談所で紹介される人たちはコミュニケーション能力が低いと感じることが多かったです」
啓介さんと初めて会ったのが2019年の9月。そこで連絡先を交換し、ポツリポツリとLINEのメッセージを交換するようになった。
飲みに行こうと誘い合ったのが11月。改めて2人きりで会って話して、「すごく合うな」と感じたと雅美さんは振り返る。
「まさに感覚的な問題です。話すスピードや間の取り方、振ってくれる話題の深さなど、相性があると思うんです。何十人とお見合いしたからその大切さがわかったのかもしれません。一緒に2軒目に行きたい!と素直に思えたのも久しぶりでした」
年明けに交際が始まり、婚約したのは春先である。「コロナがあったから物事が早く進んだ」と雅美さんは指摘する。
「音楽好きの彼にはフェスに連れて行ってもらう約束をしていましたし、私は彼と『呑み鉄』をしたかったんです。でも、どこにも出かけられなくなりました。仕方ないので、2人で公園を散歩したり、彼の家でアマゾンプライムを観たり。何気ない日々でしたが楽しかったので、一緒に暮らすイメージができました」
啓介さんも同じ感想を持ったようだ。同棲したいと持ちかけてきた。しかし、雅美さんは「一緒に住むならば籍を入れちゃいたい」と返す。ここが正念場だ。
「この年齢で同棲はないな、と思っていました。無責任なことはしたくないし、相手からもされたくないからです。彼から『まずは同棲して試してから』と言われたら別れるしかないと覚悟しました」
近所のコンビニのイートインスペースでの出来事である。すると、啓介さんは「じゃあ、結婚しよう」と返してきた。まさかのプロポーズである。
「後ろの席では競馬新聞を読んでいるおじさんが聞き耳を立てていました(笑)。私はあまりの展開に口がパクパクしてしまったのを覚えています」
失敗を肥やしにした確かな幸福
雅美さんには懸念もあった。婚活市場では需要があるアラフォーの未婚男性が同い年の自分を選んでくれたのはありがたい。しかし、彼の両親はどう思うだろうか。子どもはできたら欲しいけれど、不妊治療までは考えていない自分でいいのか。
「彼には10歳以上年齢が離れているお姉さんが2人いて、それぞれ高校生や大学生の息子さんがいます。70代の両親は末っ子長男がやっと結婚したことでほっとしてくれたようです。彼は『結婚するのはオレだから。親は関係ない』と言ってくれています。子どもはきっとできると単純に考えている節もありますが……」
雅美さんの父親は15年ほど前に脳梗塞で倒れ、現在は介護施設で暮らしている。コロナ禍で急に結婚が決まり、父親にはまだ啓介さんを紹介できていない。
「一緒になれる人がいて幸せだなとは思いますが、今は新生活に向けてやるべきことが目白押し。業務のようにいろんなことを進めています」
再び左脳をフル回転させて新婚生活を整えている雅美さん。しかし、その表情は柔らかくて明るい。婚約破棄やお見合いの繰り返しなどを経験した苦しい時期と比べると、喜びと感謝しかないからだ。それを言葉にして啓介さんに伝えているという。失敗を肥やしにした確かな幸福がここで育っている。
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