アビガンがコロナに劇的に効く薬ではない現実 あれだけ注目されたその後はどうなっているか

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脚光を浴びた「アビガン」の生い立ちから、最新事情までを追った(写真:富士フイルムホールディングス)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下新型コロナ)患者は今も毎日報告され、収束の兆しは見えないが、これに関連して表舞台からこつぜんと消えてしまった話題がある。「新型コロナの治療薬になるかも?」と注目された新型インフルエンザ治療薬・アビガン(一般名:ファビピラビル)である。

いまからさかのぼること4カ月余り前の5月4日、新型インフルエンザ等特措法に基づく緊急事態宣言延長時の記者会見で、安倍晋三首相(当時)は「すでに3000例近い投与が行われ、臨床試験が着実に進んでいます。こうしたデータも踏まえながら、有効性が確認されれば、医師の処方の下、使えるよう薬事承認をしていきたい。今月(5月)中の承認を目指したいと考えています」と発言した。

首相自ら特定の薬剤名に言及したことで、一般人の間で「アビガンは新型コロナの『特効薬』」という無意識な刷り込みが広がった可能性は否定できない。

そしてそのアビガンを名指しした安倍首相は健康問題を理由に辞任を表明。その後のアビガンについてはほぼ音沙汰なしだ。今、アビガンはどうなっているのか?

アビガンとは何か?

そもそもアビガンは、富山大学医学部教授の白木公康氏と富山化学工業(現・富士フイルムホールディングス傘下の富士フイルム富山化学)が、季節性インフルエンザの治療薬を目指して開発した薬だ。

インフルエンザウイルスはヒトの体内に入ると、ヒトの細胞に潜り込んでウイルスの持つ遺伝情報(RNA)を放出(①)。放出されたウイルスの遺伝情報がヒトの細胞を乗っ取って新たなウイルスを作り出し(②)、この新たにできたウイルスはその細胞から飛び出して(③)、別の細胞に感染するという経過をヒトの免疫に制圧されるまで繰り返す。

現在、日本国内で厚生労働省の承認を受けたインフルエンザ治療薬はアビガンを含め7種類あるが、これらは①~③のいずれかの段階でウイルスの働きを阻止する。具体的には、①が1種類、②が2種類、③が4種類ある。アビガンは②に該当する。

ただ、2011年3月にアビガンが季節性インフルエンザ治療薬として厚生労働省に製造承認を申請した当時、インフルエンザ治療薬として認可されていたものは③のタイプのタミフル(一般名:オセルタミビル)、リレンザ(一般名:ザナミビル)、ラピアクタ(一般名:ペラミビル)の3種類のみ。タミフルが経口薬、リレンザが吸入薬、ラピアクタが点滴静注薬という点を除けば、いずれも効き方(作業機序)はまったく同じで、効き目もほぼ同じと言っていい。

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