Knotが上質な国産腕時計を1万円台で出せる訳 「社長解任」の辛酸を舐めた男が創ったブランド

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――そのような状態から奮起し、新しいブランドを立ち上げた。過去にバイヤーとして世界を飛び回っていた経験から、踏み出せたのでしょうか。

はい。海外の良いものをたくさん見てきたからこそ、国内の良さを再確認できたのです。

イタリアでは、多くの鞄メーカーをビジネスとして扱ってきました。トスカーナ地方にある有名なヌメ革のバッグは、芳醇な香りがして、しっとりとして、長く使っていれば経年変化が楽しめる大変良い素材ですが、10万円もします。一方で、日本にも負けず劣らず良い品質のレザーがあるのです。「Knot」がメインで使用している栃木レザーであれば同じ鞄が3分の1の価格で売れる。

トスカーナにある有名なタンナーは世界的なブランドになっているのに対し、日本の栃木レザーというブランドは、海外ではほとんど無名。ここに大きなチャンスがあると感じました。

売れるブランド、ストーリーづくりの神髄

――遠藤さんが主人公として描かれている『つなぐ時計―吉祥寺に生まれたメーカー Knotの軌跡―』の中の1シーンで、遠藤さんがある時計を売り出していくときに「商品を紹介するキャッチコピーや誕生物語も魅力的に磨き上げていき、商品が生まれた土地や創り出した人物、製造工程について雑誌や書籍で読み込む」というシーンが印象的でした。企業が売れる商品やサービスをつくっていくためには、その中身の良さはもちろんのこと、ブランドをどうつくっていくか、そのためのストーリーづくりが必要ですね。

原点につながるのですが、私は通信販売会社のバイヤーからキャリアをスタートしました。その前は写真の仕事をしていたのです。当時はフィルムカメラの時代でした。フィルムを見るだけで、その写真の完成をイメージして、色を調色するようなこともやっていました。

バイヤーという仕事は売れる商品を見つけてくるのですが、通信販売における営業マンはカタログなのです。このカタログを使ったお客様へのセールスの手段は、写真と文章しかない。ここで、たまたま私が培っていた写真のスキルが運良く役に立ちました。あとはもう徹底的にキャッチコピーです。

そして、例えば同じKnotの時計であっても、人によってセールスポイントは違います。その中で、常に僕が考えているのは、腕時計といっても、やっぱりファッションの中の一部であって、ファッションといっても小売業の一部なので、世の中全体のトレンドや人々の価値観などと必ずリンクします。

私はもともと時計業界の人間じゃないので、他社の時計メーカーのことってあまり情報も仕入れることもなくて、もっとマーケット全体であったりとか、消費者全体のニーズであったりだとかの面で、マーケティングをかなり集中的に行って、その切り口を決めていきます。

――時計に限ったマーケットブランディングじゃない。

はい。私は化粧品や旅行業、飲食店などからヒントを得ています。

――それらのビジネスに共通する本質を見極めて、応用するワケですね。

そうですね。

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