東武350型、休日だけ走る「昭和の長距離列車」 往年の名車の面影残し、鉄道ファンの人気の的

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長らく整備を担った新栃木出張所の班長、柏倉秀隆さんは「350型は『MG』(車内設備などに電力を供給する補助電源装置。電動発電機)を2つ積んでいるんですが、これの手入れに手間がかかったなと。350といえばMGという印象ですね」と話す。近年の車両の補助電源装置はMGではなく、回転部分のないインバーターが主流だ。同出張所の手塚央区長によると、350型のMGは構造が古いタイプという。現場のベテランたちは何気なく話すが、丁寧なメンテナンスが長年の活躍を支えてきた。

一見して3本とも同じように見える350型にも個体差がある。「1本だけ台車が違うんです」。1800系から350型への改造は6両編成2本を4両編成3本につなぎ変えたため、先頭車両が2両足りない。このため1本(352編成)の先頭車は、中間車両に運転室を取り付ける大がかりな改造で生み出された。この編成は台車がほかの2本と違う。

350型の今後は?

350型は1991年の登場後、活躍の舞台を「りょうもう」時代の伊勢崎線系統から日光線・鬼怒川線方面、そして宇都宮線へと移し、野岩鉄道・会津鉄道に乗り入れる急行「南会津」や、宇都宮線の急行「しもつけ」などに活躍した。

「急行 スノーパル」のヘッドマークを表示した350型(記者撮影)

2006年3月のダイヤ改正でそれまでの有料急行列車は特急に格上げされたが、もともと急行用車両だった350型を使う列車の特急料金は、現在も「スペーシア」や「リバティ」と比べて若干安い。「車両の座席などに違いがあるため」(東武広報部)だが、お得に乗れる特急列車でもある。

近年は「しもつけ」と日光方面への「きりふり」が主な仕事で、通勤特急や日光観光輸送の補完役としての役割を担ってきた。私鉄では珍しい夜行列車の「尾瀬夜行」や「スノーパル」にも使われた。だが、今年6月のダイヤ改正で毎日運転の「しもつけ」が廃止され、定期運行は土休日だけになった。

鉄道ファンに根強い人気を誇る350型。東武は8月25日に発表した2020年度の設備投資計画で特急車両500系(リバティ)を3編成増備するとしており、先行きを気にする声もあるようだが、同社によると「今の段階では何とも言えない」という。

1800系として誕生してから約50年、来年で改造から30年を迎える350型。活躍の場が減ったとはいえ、懐かしい雰囲気を伝える名車は走り続けている。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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