大改装で変わる「渋谷地下街」の知られざる歴史 スクランブル交差点下「しぶちか」で生きる人々
継続する店舗は少ないが、店を続ける理由を聞くと非常にアグレッシブにこの土地、これまでの強みを生かして行こうと考えている人が多い。
たとえばしぶちかは通勤・通学などで毎日通る人が多く、常連客が非常に多い。その人たちのために店を続けるという声が多いのである。「店に話をしに来る人もいることを考えると続けることには意味があると思ってね」というのは、かつらの専門店シブヤアクセサリーの小黒淑子氏。御年80歳、自分のためにも会話のある店を続けるという。
常連が多いことに加え、独自性のある品揃えも継続する店舗の特徴だ。引っ越した常連客から「明日行く」と電話が入ることもある女性下着専門店マリーナでは限られた空間に少量多品種が揃う点が評価されていると店主の中村公宣氏は話す。
レディス靴MIDORIYAの黒須富男氏は新宿、渋谷で各1店しか扱いがない白いパンプスという希少な品を中心に、見た目より履きやすさ優先の品が売れているという。ペットグッズさとうの佐藤剛氏は「渋谷駅周辺の行き帰りにさっと買える場所にはペットグッズ店は少なく、意外にニッチ」とも。狭さをカバー、立地を上手に生かしているのである。
9カ月に及ぶ改装期間をチャンスに変えようと考える人もいる。喫煙具、たばこなどの専門店ありいづみの有泉宏洋氏は3代目として店を継いだ1992年に葉巻の扱いを開始して顧客層を広げたが、今回は自分の好きなコーヒーをプラス。まずは原宿にコーヒーの焙煎を行う店を開き、その成果をもってしぶちかに戻ってくる計画を立てている。現在の喫煙具、煙草だけの店でコーヒー豆などを売れるようにできないだろうかというのである。
変わっていく渋谷を見たい
もう1つ、継続する店以外も含め、ほとんどの人に共通するのは焦土の時代から60年以上関わり続けてきた渋谷の変化を見届けたいという思いだ。店が渋谷にあるだけでなく、近隣に住まいがあることも多く、しぶちかの人たちにとって渋谷はふるさとなのである。
父は渋谷川で、自分は二子玉川で泳いだというダンスウエア・マルコシの星野一雄氏は、都市防災を考えると街が変わるのは理解できるとして、その渋谷の変化をずっと見ていたいという。少なくとも再開発が終了、渋谷がもっといい街になる日を見たいのだと。
ヨソ者からすると昭和の風景が消えていくと感傷的になってしまうのだが、闇市の頃から激動の時代を生きてきたしぶちかの人たちはこの度の変化も冷静に受け止め、自分たちにできることをと考えている。
閉店はしても振興組合には40名以上の人が組合員として残り、しぶちかの名称も継承される。これまでとは関わり方は変わるが、世界の渋谷の玄関口にあるしぶちか新生に寄せる思いは熱く、闇市を生んだ生命力は今も健在であることを教えてくれる。
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