日本IBMが在宅勤務に取引先を巻き込んだ理由 個が輝ける環境づくりは社会全体の課題だ

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山口:もう1つは、社員を管理するのではなく、自立性を重んじる文化が重要です。私たちの場合「在宅だと仕事をサボる」とは考えずに、「自由にしたほうが、もっと働いてくれるかもしれない」と発想します。

管理されることに慣れてしまうと、指示された範囲でしか仕事をしなくなり、優秀な人も伸びなくなる。一方、自由な環境下で責任を持って仕事をしている人は、自分で考え抜くクセがつくので、どんどん成長していきます。

小室:私たちのクライアントには、リモートワークに懐疑的な企業もあります。特に昭和的な価値観の企業では在宅勤務=自宅待機という感覚があるので、「早く出社できるようにすべき」と考えています。

社員も「自宅で一生懸命働きたいけど、役員からは休んでいると思われるから、やっぱり出社しないとまずい」と考え、危険を冒してでも出社体制に戻ろうとするわけです。

山口:そうやって社員が無理してしまうわけですね。

小室:社員が自宅で必死に働いていても、役員は「あいつはまだ出社しない」「まだ休んでいるのか」という目で見ている。私には、そのギャップが衝撃的でした。

では、なぜ「在宅勤務では仕事が進まない」と考えるかというと、企業の役員たち自身が管理されながら仕事をしてきたから。自分たちが軍隊式で育てられているので、自由にさせたら仕事をするはずがないと思い込んでいます。

そうやって管理型のマネジメントを志向しながら、もう一方で社員に「もっと自立的に働け」というのは矛盾しています。本来はマネジメントを「信じて任せる」形式にするほうが先であるべきです。リモートワークの極意は社員の自立であり、その自立を促す心理的安全性の高いマネジメントということです。

山口:私が社員を見ていると、細かく管理したときに仕事の生産性が落ちる人が多いように感じます。自由に仕事をする場合、結果を出せなかったら責任を取らなければならない。だから真剣にやり方を考えるようになる。そうすると仕事が楽しくなるはずです。

小室:究極は社員をみな経営思考にするということですね。

男性が産後すぐに育休を取るべき理由

小室:コロナ禍においてテレワークが増え、社員のマインドで変化したことはありますか?

山口:マジョリティーがリモートワークをするようになると、これまでとは逆に、事業所に出る人のほうがマイノリティーとして扱われるようになる。それにより、男性のマインドが変わって自宅で子育てをすることに対する心理的なハードルもなくなってきたように見えます。

昨年までの過去3年間の弊社男性社員の育休取得率は約9%で、取得期間は平均約60日なのですが、私は今年の1月に「男性の育休取得を100%にしよう」と宣言しています。

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