山は市場原理主義と闘っている 安田喜憲著
日本では古来、山は信仰の対象だった。そして稲作漁労民が山と共存し世界有数の森林国家が生き残っている。羊やヤギが森を食べ尽くした畑作牧畜民の西洋との対比を通じて、山と森と海の文明が語られる。
気候、生態系、宗教、水と食、イデオロギーにわたる比較文明論を、年縞分析や古今東西の史実から論じてきたなかで、モンスーンアジアの「美と慈悲の文明」が一貫して称揚される。著者積年の研究成果が集大成された感があり、展開されるファクトの数々は好奇心を刺激してやまないだろう。
一神教の世界では山や森は暗黒の征服すべき対象であり、日本に典型的な多神教の世界では畏れ敬い活かされるべき対象である。
世界的な水資源枯渇が目前に迫った今、日本の森が世界の市場原理主義によって蹂躙(じゅうりん)されないよう手を打つべしとの警鐘は貴重だ。若干、重複する文章が散見されるが、著者の思いの丈と読めば宗教音楽のリフレインそのままに納得がいく。(純)
東洋経済新報社 2520円
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