「モテないオスは淘汰される」自然界の厳しい掟 オスは自分の遺伝子残せないカブリダニの悲哀

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

進化の途上で、有性生殖をやめたと思われる生物がいます。カブリダニというダニを食べる肉食性のダニは、もともとのオスの個体が少数です。このオスはメスと交尾して、受精させますが、受精卵が育つ過程でオスの精子の遺伝子は溶けてなくなってしまいます。結局メスのクローンが生まれてきて、オスの遺伝子は1つも入っていません。

このような形態を偽産雄単為生殖といいます。オスの遺伝子は使ってもらえないのですが、オスと交尾しないとメスは次世代のメスを生むことができません。なので、オスの受精が胚発育のスイッチの役割を果たしているのではないかといわれています。

ダニの多くは有性生殖をしており、カブリダニももともと有性生殖をしていたと思われます。しかし、彼らの生息環境において、それほど変異を必要としなくなったのかもしれません。そうなってくると、メスとしてみれば子どもを生まないオスを生産することは無駄になってきます。で、「もうオスを作るのはやめようかな~」と進化している途中の段階がこの偽産雄単為生殖という中途半端な生殖様式なのではないかと考えられます。

これは、無性生殖=クローン繁殖の一歩手前の段階です。いよいよオスが一切不要という環境に適応すればクローン繁殖が始まると予測されます。このようにカブリダニという種は、生殖の進化の過程が観察できる重要な生物ではないか、と勝手に考えています(実際にその進化プロセスは、詳細な系統関係の分析が待たれます)。

(出典:『これからの時代を生き抜くための生物学入門』)

環境が安定していれば、オスは無駄になります。子どもを生まないくせに資源の半分を奪うだけの無駄飯食いになります。そうなってくるとあまりオスを生まない系統のほうが子孫=遺伝子を残すうえで有利になってくるし、いっそメスしか生まない系統のほうが繁殖戦略上、いちばん効率がよくなって、単為生殖へと進化することになります。

ただし、単為生殖だと、もし天変地異が起こって食料がなくなったり、水がなくなったりなどの劇的な生息環境の変化が生じたら、間違いなく絶滅するリスクは高くなってしまいます。

カブリダニも今はいいけれど、将来、何か起これば絶滅してしまうかもしれないのです。そう考えたらカブリダニは、せっかく進化させてきた有性生殖を捨てて偽産雄単為生殖へと鞍替えして、「退化」=「進化の逆行」をしていると見えるかもしれません。でも、実はこれも進化なのです。

次ページ退化も「進化」の一種である
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事