ルポ 日本の縮図に住んでみる 大丈夫! どこからでもがんばれる 日本経済新聞社編 ~長いようで短いシニア記者の1カ月定住ルポ
「日本列島のある場所に1カ月ほど住んでみたら、日常とは違う何かが見えてくるだろうか」と、シニア記者(54~60歳)が六つの地域を選び、住んで取材した意欲的なルポである。
選ばれたのは、日本最西端の島・沖縄県与那国、3大ドヤ街の一つ・横浜の寿町、不登校や引きこもりの若者が共同生活をする奈良県吉野の若者自立寮、都会からの移住者誘致に熱心な北海道の浦河、日系ブラジル人が多く住む愛知県豊田市の保見団地、岡山県邑久のハンセン病療養所邑久光明園である。
住みつくことで、地域の抱える問題が見えてきたと同時に、記者自身が自分を見つめ直す機会にもなったという。
沖縄本島より台湾のほうが近い与那国のことは、評者自身30年も前に沢木耕太郎の「視えない共和国」で知った。以来ずっと関心があったが、その現在は決して神話的ではない。1600人の命を預かる「ドクター孤島」、首都圏から来た援農3人娘、風の防人、郷土資料館のおばあ……。みな生きる目標がきっぱりしていて元気だという。
寿町は、山谷、釜ヶ崎と並んで3大ドヤ街の一つである。今年も公設派遣村が話題になったが、かつてはドヤ街が「反貧困」のニュースの主役だった。邑久光明園は、やはり重い。ハンセン病患者に対する偏見・差別はいまだに根強いものがある。
ドキュメンタリー映画では、対象との距離をどうとるかが常に問題となる。それを克服するのは「時間」であるといわれる。『阿賀に生きる』や『三里塚辺田部落』など、2年、3年とそこで生活をして撮影したという優れた作品が多い。それらと比べるべきではないだろうが、1カ月というのは、長いようで短い。せめて季節をまたいでほしかった。そうすればまた違う容貌が見えたかもしれない。
日本経済新聞出版社 1680円 245ページ
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