36歳崖っぷちボクサーが「奇跡」を起こした背景 テレビの枠に収まらなかった男の挑戦を本に

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とはいえ執筆は初めてなので時間がかかった。言葉にならないから映像化することを考えて仕事をしてきたのに、本は言葉しか使えない。また、書いているうちに、自分が安全地帯で彼を見ているようで、卑怯(ひきょう)に思えてきた。だから自分のことも書くことにした。

──家族には内緒で書いたとか。

勝手に書き始めたから一銭にもならない。妊娠中の嫁に隠れて、喫茶店で朝から晩まで書いていた。仕事の依頼の電話が来ても、執筆に集中したいから断ったり。数カ月後に貯金が底を突き、出産費用も払えなくて、友人に借りてしのいだ。娘が生後3カ月のときに家のガスが止まって、仕事をしていないことが嫁にバレちゃった。妻の妊娠中に依頼されてもいない執筆などするべきではない。

「はみ出しまくったもの」作りたい

──米澤さんとは今も友人?

1人の友人として時々会っている。4年前に原稿を書き上げたときは、誕生日プレゼントとして渡してみた。読んだ感想は「懐かしいなぁ。みんなに助けられていたんだなと思いました」って小学生みたい。拍子抜けしたことを覚えている。執筆のために彼の両親にも追加取材していたのに。

『一八〇秒の熱量』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

──ボクサー引退後は余生と語っていました。

ショックだった。一段落すれば、システムエンジニアでも何でもいいから次の何かに向かっていくと思っていた。でも引退から6年経っても契約社員として働いており、コールセンター時代と大して待遇は変わらない。やはり、あの9カ月間の日々のような情熱を傾けられないのかな。本人は「あんなに一生懸命できないっすよ、あはは」と楽しそうにしているが。

──今後も執筆を続けますか。

周りの勧めもあって、取材対象者のことを少しずつ書いている。職業として映像作家は続けるが、僕が撮ったものはテレビの枠に収まらない。テレビでやれることがわかっているのに、僕はブレーキをかけずに踏み込んでしまう。毎回はみ出ていることに気づいてカットして終わり。悔しかった。

今は書くという手があるとわかったので、執筆を増やしたいし、映画でもいい。米澤さんの映画もフィクションで考えている。これからもはみ出しまくったものを作ろうかな。

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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