「つくば市」の人口が33年も増え続けている理由 未来科学都市の側面と交通アクセスの良さ

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さらに市内を歩いていると、北の方角に美しい双耳形の山容があらわれた。筑波山の秀麗な姿である。日本百名山の筑波山は標高877mで「西の富士、東の筑波」と称される名山。登山口の筑波山神社まではつくば駅からバスで約40分。人口約24万人(外国人含む)の都市のすぐ近くにこんな自然環境が展開している。

郊外には田園地帯が広がり、里山を開放した高崎自然の森や小貝川流域のサイクリングコースなど休日のレジャーに最適の自然環境が残されている。近未来的な施設群と豊かな自然環境という街の多様性も人口増加の背景にあるのではないだろうか。

ただし、つくば市の人口は、国立社会保障・人口問題研究所の「地域別将来推計人口(2018年3月)によると、2035年までは増え続けるが、2040年には減少に転じる。つまり15年後までは増え続ける人口への対応が必要で、20年後からは人口減への対応が必要となる。市が力を入れてきた学校の新設、維持管理も今後は難しい判断を迫られる。

インフラ整備が課題になっている

また、周辺市街地の分散化によりマイカーがないと不便な実情、郊外エリアの大型商業施設の充実と裏腹に中心市街地の賑わい低下、市町村合併や新興住宅街への新住民流入によるコミュニティの希薄化、生活環境や価値観の相違などが指摘されている。筑波学園研究都市の建設時期に整備されたインフラの老朽化や、TX沿線の人口増加地区のインフラ整備も課題となっている。

市は、そうした課題解決や未来のまちづくりに向けた「つくば市未来構想・戦略プラン」を今年改定した。その過程で昨年、市民と市長が直接話し合いの場を持つキャラバンを7回開催。その中で大学生からは「筑波スタートアップパークなどで盛り上がり、シリコンバレーのような未来を期待する。ベンチャー企業を立ち上げたいと考えている」という意欲的な発言があった。

市内の企業関係者からは「東京のベッドタウンとしてだけではなく、つくばのポテンシャルを活かした企業が成長できるように検討する余地がある」「東京一極集中のリスクを分散させる代替地として、本社を誘致できるポテンシャルが高いと思う」と、未来志向の意見も出されている。

ポスト・コロナ時代に向けて東京一極集中是正、解消が大きなテーマとなる中、科学研究都市であるつくば市が今後どんな変貌を遂げていくのか、注目していきたい。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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