「ポスト安倍」海外紙記者はここに注目している 米国には「また1年ごとに代わるのか」との声も

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8月28日に持病悪化を理由に辞任表明した安倍氏に続く首相の座を最終的に勝ち取る人物は、多くの困難に立ち向かうことになる。それも、8年近い記録的な在任期間をかけて築き上げた安倍氏のような地位を得ることもなく。

基本的な部分においては、日本が依然として秩序のある繁栄した国であることに変わりはない。しかし、その長期的な問題は極めて根が深く、安倍氏の歴史的な長期政権をもってしても十分な成果を上げることはできなかった。

安倍氏自身、最大の後悔として、日本の平和憲法を改正して自衛隊を「正常化」できなかったこと、ロシアと領有権を争う北方領土の返還を実現できなかったこと、そして数十年前に北朝鮮に拉致された日本国民の帰国を果たせなかったことを挙げている。

デジタル化と女性の活躍が国力を左右

現時点で次期首相の最重要課題となるのは、世界規模のパンデミックで大打撃を受けた経済の回復だ。日本の借金は経済規模に比してすでに先進国で最大となっているが、そうした中でも日本は経済を刺激するために巨額の財政支出を続けてきた。

「構造改革や人口問題といった日本特有の大問題以前に、日本は超重量級の難問を抱えている」と、ワシントンの外交問題評議会で日本研究の上級フェローを務めるシーラ・スミス氏は言う。

とはいえ、今回のコロナ禍は次期首相にとって社会変革を促すチャンスとなるかもしれない。こうした変革は家庭を持つ女性の職場での昇進を阻む障壁など、日本社会に深く根差した問題の改善につながる可能性がある。

春の緊急事態宣言中、日本政府は従業員の在宅勤務を認めるよう企業に強く要請した。しかし、アナログで紙ベースのオフィス文化が多くの人々の前に立ちはだかった。最近の調査によると、在宅勤務を継続している従業員は5人に1人しかいない。

東京のゴールドマン・サックスでチーフ日本株ストラテジストを務めるキャシー・松井氏は、次期首相には国として綿密なデジタル戦略を策定し、より先進的なテクノロジーを導入するよう企業を強く後押ししてもらいたい、と話す。

「人口減に直面している以上、明確なIT変革戦略に投資する以外に生産性を高める方法はない。そう遠くない未来に生産性革命を起こすことが絶対に必要になる。だから、このピンチを逆手にとってデジタルトランスフォーメーションに向けた変革のチャンスに変えること」が極めて重要であると言う。

テクノロジーの導入が進み、在宅勤務できる人が増えれば、女性にとってもプラスとなる可能性がある、と東京を拠点とするドイツ日本研究所のバーバラ・ホルトス副所長は話す。同氏は、リモートワークが新型コロナの感染対策だけでなく、特に仕事を持つ母親たちの力となる可能性について、次期首相が企業や従業員に周知することを望んでいる。

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