財政再建は時期尚早、まずは景気回復を--リチャード・カッツ

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 財政赤字に関して厳しい見方をする人々は、債務の総残高の高水準を理由に、日銀は近いうちに低金利の維持ができなくなるだろう、と主張する。しかし、「総残高」というのは誤解を招きやすい。というのは、たとえば日銀が日本の国債を保有する場合のように、一つの政府系機関が他の政府系機関に対して負う負債が「ダブルカウント」されるからだ。

 より的確なのは、債務の「純残高」だ。現在の純残高は、GDPの100%程度である。気掛かりな傾向ではあるものの、これが手品の限界だと考える理由はない。1997年には、債務の純残高がGDPの35%に達するとの懸念から橋本龍太郎首相が消費税を引き上げ、深刻な景気低迷を招いた。03年には、債務の純残高がGDPの76%に達したことから、市場でパニックが起こった。

 他の国々では、20年間にもわたって債務の純残高がGDPの100%近くで推移していても危機が発生しなかった例が見られる。たとえば、イタリア、ベルギーなどだ(図3参照)。現在、ギリシャが危機の渦中にある大きな理由は、債務の多くを海外の資金で賄い、過去4年間にGDPの11~14%に上る巨大な経常赤字を抱えてしまった点にある。対照的に日本の債務の大半は、国内の資金によって賄われている。

図3)借金漬けのイタリア、ベルギーでも危機は起きなかった
-1990年代前半の純債務残高の国際比較-
出所)OECD
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