財政再建は時期尚早、まずは景気回復を--リチャード・カッツ
●経済的な食欲不振と赤字中毒
日本の慢性的な財政赤字は、日本が抱える問題の原因ではなく、むしろその症状と見るべきだ。70年代半ば以降、80年代後半のバブル期を除くほとんどの期間を通して、日本は多額の財政赤字を抱えてきた。日本は、「経済的な食欲不振」と呼ばれるマクロ経済上の不均衡、つまり、生産しただけのモノを消費することができないという症状に悩んできた。これは、国内の民間需要の構造的な不足に起因している。結果として、日本にはつねに、国内の民間部門以外に需要を求めなければならないという圧力がかかり、大きな財政赤字、大きな貿易黒字、またはその両方を強いられている。財政赤字の増大で真に懸念すべきは、国債の危機ではなく、実体経済の衰退だ。財政危機回避のために超低金利を維持することによって、甚大な副次的被害が引き起こされている。企業は、一時的には需要を拡大するが長期的には潜在的成長を阻害する、無駄なプロジェクトに資金を投入することになる。たとえば、スーパーマーケット・チェーンはこの10年間、業界全体の売上高がほぼ横ばいであったのにもかかわらず、新規出店に精を出してきた。また、銀行融資のうち20%の金利が1%未満、5%の金利が0.5%未満という状況の下で、「ゾンビ」企業がこぞって命脈を保ってきた。
今、日本政府は、予算を子ども手当、高等学校の授業料無料化、郊外住宅への下水道の普及、消費者を対象とする減税など、正しい目的に支出することによって、景気回復を図らねばならない。そして景気回復が確実になってから、財政赤字とその根底にある原因に焦点を絞って対処すべきである。
Richard Katz
The Oriental Economist Report 編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。
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