そのシェアサイクル分野では、大手通信キャリア系2社の異業種組が市場の中心を占める。最大手はNTTドコモ子会社のドコモ・バイクシェアだ。2015年にサービスを本格開始した国内の草分けであり、赤色の自転車が目印の同社シェアサイクルは、都心部中心に1万0500台を展開している(2019年3月時点)。
もう1社が「HELLO CYCLING」ブランドで展開する、ソフトバンク系のOpenStreetである。ソフトバンクグループの新規事業提案制度を通じて2016年に設立した同社は、地方自治体と連携し、都心部だけでなく郊外に広く自転車を配備している点に特徴がある。
意外な新参企業も存在感を高めている。LPガスや燃料卸などを主力とするシナネンホールディングス。同社は2019年にシェアサイクル子会社を設立。OpenStreet社とシステム面で協力し、「ダイチャリ」ブランドで拠点網を広げている。現在は首都圏中心に約1200拠点、6000台展開のところを、2023年3月末には2700拠点、9000台にまで拡げる計画だ。
シナネンホールディングスは、2013年に「ダイシャリン」ブランドを展開する流通チェーンの青葉自転車販売を買収するなど、近年、自転車事業への積極姿勢が目立つ。「既存の燃料・LPガス市場が成熟化する中、非化石燃料、非エネルギーの新事業として、再生可能エネルギー事業などと並び、自転車事業を強化している」(同社)。
脱化石燃料、健康増進志向も追い風
振り返れば、近年の国内市場は、縮小均衡が続いてきた。経済産業省によれば、2019年の完成自転車の国内出荷台数は162万台。10年前の2010年は303万台の出荷だった。この10年間で年間出荷は、約半分まで減った計算になる。
前出のあさひは縮小市場で優位に立ってきたが、ほかの自転車小売り大手には、イオン系のイオンバイクなど赤字体質に苦しんできた企業もある。ボリュームゾーンをなす普及価格帯の「ママチャリ」(軽快車)が、大きく落ち込んでいることが大きく、その落ちこみを電動アシスト車(日本ではパナソニック、ブリヂストン、ヤマハ発動機の寡占市場)や、スポーツ車などの高付加価値自転車を拡販することで、何とか下支えしてきた。
決して業況が明るくない中、はからずも、新型コロナによる生活様式の大転換が起きたと言える。
もちろん現時点でブームの持続性を見通すことは困難だ。一過性に終われば、元の縮小市場に戻るだけかもしれない。しかし、欧米など海外先進国に目を転じれば、感染回避の手段としてだけでなく、健康増進や脱炭素社会に寄与するとして自転車利用が再評価されている。長期的なトレンドへと結実すれば、これまで雨模様だった自転車市場も、本格復活のチャンスが来るかもしれない。
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