なぜ、彼らに公費が出ないのかと言えば、法的根拠がないからだ。コロナの検査の法的根拠は、感染症法だ。この法律で検査が認められているのは、感染者および疑い者と濃厚接触者だけだ。第1波で保健所が濃厚接触者への対応に忙殺される一方、発熱した一般市民には「37.5℃以上で4日間」という基準を作って検査を抑制したのは、感染症法に準拠して対応したからだ。
これでは、感染しても大半が無症状で、彼らが周囲を感染させるコロナは抑えられない。諸外国が無症状者に積極的にPCR検査を実施しているのは、このためだ。例えば、8月19日、英国政府は全人口を対象に定期的に検査を実施する方針を表明している。
コロナが流行しても、医師や看護師、警察官などの一部の職種は働かざるをえない。コロナ感染は彼らの命に直結する。アメリカ・ニューヨーク州の公立学校教員13万3000人が加盟する「ニューヨーク市教員連盟」は、PCR検査などコロナ対策が整備されないままに、この9月に学校が再開されればストライキも辞さないという姿勢を表明している。
エッセンシャルワーカーには検査を受ける権利があるはずだ。ところが、日本は逆だ。厚労省と専門家が率先して、検査を絞っている。7月16日、コロナ感染症対策分科会は「無症状の人を公費で検査しない」と取りまとめた。
濃厚接触者の拡大解釈は厚労省に委ねられる
厚労省は現行の感染症法の拡大解釈で乗り切ろうとしている。厚労省は、感染者が多発する地域やクラスターが発生した地域では、医療機関や高齢者施設の職員や入所者も公費で検査を受けられるという通知を出した。これは、このような地域で働く医師や看護師を「感染を疑う正当な理由がある」として、濃厚接触者の定義を拡大解釈するものだ。
さらに8月21日には、接触確認アプリで通知があれば、全員が無料で検査を受けることができると発表した。これも濃厚接触者の拡大解釈だ。
こんなことをしていたら、感染対策が後手に回る。院内感染が生じ、多くの高齢者が亡くなってしまう。
また、エッセンシャルワーカーの人権を何とも思っていないことになる。濃厚接触者の拡大解釈は厚労省に委ねられる。検査を受けることができるのは、「厚労省の恩寵的な措置」ということになる。これはわが国の公衆衛生が戦前、内務省の衛生警察業務だったことに由来するのだろう。国民の人権よりも国家の都合が優先されている。
エッセンシャルワーカーは検査を受ける権利がある。流行地域では、濃厚接触の有無とは無関係に検査を実施できるような体制を整えるのが急務だ。そのためには、まず臨時国会で感染症法を改定し、このことを明示することが求められる。国民目線で感染症対策を変える時期に来ている。
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