とくに、感染ピークから時間が経って検査をした場合、その数字は信頼できないかもしれない。例えば、神戸市立医療センター中央市民病院は、3月31日~4月7日にかけて1000人の外来患者を検査し、抗体保有率は3.0%だったが、5月26日~6月7日にかけて外来患者1000人を検査したところ、抗体保有率は0.17%に低下していた。
この乖離について、神戸市立医療センター中央市民病院は利用した検査キットの差が影響した可能性が高いと発表している。初回はクラボウ社製キットで、2回目はアボット社製らしい。もちろん、この可能性も否定はできないが、アボット社製よりクラボウ社製のほうに擬陽性が多いというのは、確たるエビデンスのない話だ。
また、6月18日に中国の重慶医科大学の研究者たちが『ネイチャー・メディスン』に発表した研究によると、無症状の感染者37人の抗体を調べたところ、その抗体価は症状がある感染者の約17%にすぎず、2カ月後には約4割で検出できなくなった。症状がある感染者で抗体が検出できなくなったのが、13%にすぎなかったのとは対照的だ。
日本国内で無症状感染者は過小評価されているはず
神戸市立医療センター中央市民病院は外来患者を対象としており、多くは無症状者だ。抗体価の減衰などの影響も否定できない。最新の研究成果を踏まえ、見直す時期だろう。おそらく、日本国内で無症状の感染者は、過小評価されているはずだ。
このことを支持する研究は、ほかからも報告されている。スウェーデンの研究者が8月14日に『セル』誌に発表したものだ。彼らはコロナ感染と診断された患者の家族28人を調べたところ、抗体反応は17人からしか検出されなかったが、26人(93%)からT細胞の反応を確認した。軽症感染と診断された31人では、30人(97%)でT細胞反応が確認され、抗体が検出された27人(87%)より多い。抗体陰性で、T細胞反応陽性の感染者が、コロナに対して免疫を有するかは今後の検証課題だ。
では、彼らは周囲にどの程度うつすのだろうか。8月6日、『米国医師会誌(JAMA)内科版』に韓国のスンチョンヒャン(順天郷)大学の研究者たちが興味深い研究を発表した。彼らはコロナ感染が確認され、隔離された303人の患者の経過を調べた。
このうち110人が隔離時に無症状で、そのうち21人がその後症状を呈した。89人は一貫して無症状で、これは全体の29%に相当した。意外だったのは、PCR検査で推定したウイルス量とPCR検査が陰性化するまでに要する時間が症状の有無に関わらず、変わらなかったことだ。この事実は、無症状感染者も周囲に感染させることを意味する。無症状の人にはPCR検査を実施しないという厚生労働省の方針は、医学的には不適切ということになる。
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