接触確認アプリ「COCOA」まるで役に立たない訳 システムはお粗末、検査もちゃんと受けられず

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「検査を受けられない」という不満を背景に、厚生労働省は8月21日、「感染者と濃厚接触した可能性があるとCOCOAから通知を受けた場合、希望者全員が無料でPCR検査を受けられるようにする」と発表しました。

ところが、上記の日経記事によると、「保健所の業務は再び逼迫しており、迅速に検査が受けられるかどうかは不透明」「問い合わせが今後殺到するようなら、人手が足りるか不安は拭えない」というのです。

「通知が来れば検査を受けられる」との8月21日の約束は、こうした実情を踏まえてのものでしょうか?

仮に国民の6割がCOCOAを利用し、陽性登録率がかなりの率になった場合、膨大な数の接触通知が利用者に送られるでしょう。

こうなったとしても、必ず検査が受けられる体制になっているのかどうかを、国は明らかにしなければなりません。もし対応できないなら、大混乱が生じるでしょう。

疑問はつきません。検査してくれるというのですが、すぐに検査してくれるのでしょうか? 同居家族なども対象となるのでしょうか?

これらについて保証してもらえないと、COCOAが「不安を煽るだけのアプリ」であることに変わりはありません。

人々は政府を信頼するか?

COCOAのダウンロード数は、8月21日時点で1416万件、陽性登録は360件となっています。

ダウンロード数の全国民数に対する比率は1割強でしかなく、目標とされる6割にははるかに及びません。

また、8月末の段階での感染者総数が6万人強であることを考えると、陽性者のうちCOCOAに報告した人の比率は、0.5%程度をかなり下回ると考えられます。

このように、COCOAはほぼ機能していない状態です。

新型コロナウイルスの感染拡大が今後も続く場合には、より強力な接触確認システムの採用を議論すべきかもしれません。

その場合には、「疫病のコントロールか、個人のプライバシーか?」というきわめて困難な問題に直面することになるでしょう。

その際、重要なファクターとなるのは、人々が政府をどの程度信頼するかです。

政府が信頼を確立するには、ここで述べたような疑問に正面から答えることが必要です。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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