才能に恵まれた選手の責任
まだ出場した経験がない選手にとって、とにかく大事なのは勝ち上がることだ。戦術に求めるのは理想ではなく、グループリーグを勝ち抜く堅実さであり、確実性である。南アフリカW杯で多くの選手がそうであったように、格好付けている場合ではない。彼らは「チームの利益」のためにすべてを投げ出す準備ができており、スタイルの追求が「個人の利益」に見えたとしても不思議ではない。
ザックの戦術はひとつだが、それを解釈して実行するときの重心が、前者と後者では微妙に異なっている。
この2つの思いの狭間で、キャプテンの長谷部誠とGK川島永嗣がチームをまとめようとしているのが、現在のザックジャパンの構図ではないだろうか。
ただし、グループリーグを勝ち上がることができれば、この2つのベクトルは自ずと一致するはず……と筆者は見ている。ようはW杯における憧れの度合いが違うにすぎないからだ。ベクトルが一致すれば、スタイルを持っていることがトーナメントにおける最高の拠り所になる。
そのためにも初戦のコートジボワール戦で、好スタートを切ることが不可欠になる。歩み寄るべきは前者だ。仲間を助けるために、本田、遠藤、香川が「チームの利益」を優先する姿を全面に打ち出せば、日本はコートジボワールに勝利できる……と個人的に予想している。
ブラジルには「ピアノを弾く人のために、他の選手がピアノを運ぶ」という表現がある。本来であれば、本田、遠藤、香川という日本が誇る攻撃の才能を輝かせるために、他の選手がサポートするのが理想だ。だが同時に、経験の少ない若手たちを勢いに乗せるのも、才能に恵まれた選手の責任だ。
本田、遠藤、香川の献身に期待したい。
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